第55話 製薬会社?
喫茶店の方は順調だ。徐々に客足も増え、複数ショットの注文も増えている。学校が休みの今日は、事務所に来て少なくなったポーションの補給をした後、下の喫茶店へ下りて、そこでもポーション補給をしておいた。
喫茶店の奥で作業をしていると店長さんがやって来て、店に妙に目つきの悪い客が来ているという。その客は今日で3日ほど続けて店にやってきているが、一度に3個ほど同じものを注文し、全て持ち帰りで店から持ち出しているらしい。
目つきの悪い客なら森本のおっちゃんのところのお兄さんたちかと思ったが、その客は身なりが良いらしい。おっちゃんには失礼だがあそこのお兄さんたちにそんな身なりの立派なのはいない。強いて言えば最初、俺に殴りかかって来た専務ぐらいだ。そういえばあの専務どこに行ったの知らないな。社長の知らないようなことを勝手にやってたみたいだから首にでもなったか。
俺が、店の表に回って、店内の様子を見ると確かに身なりはいいが、普通のサラリーマンとはとても思えないような男が、持ち帰り用に注文した
男が持ち帰り用の紙袋を持って店を出ると、黒塗りのセダンが店の前に横付けして停車した。男が後ろの座席に乗り込みドアを閉めると、すぐに車は発車して駅の前のロータリーをくるっと回ってどこかに行ってしまった。
なんか、臭うな。念のため男に取り付けておいた蜘蛛が拾った音をしばらく聞いておこう。何か役立つ情報が取れるかもしれない。
男は、今は車の運転手と会話しているようだ。
『とりあえず、あの喫茶店で売っていた9種類のサンプルはこれで最後だ。すぐに研究所の方に届ける』
サンプル? 何だ? 俺の店の商品を分析するつもりなのか? まあ、金を払って買ったものをどうしようが買い手の勝手だから問題ないか。
『あの喫茶店のオーナーというのは、どうも若い男のようです。今回、噂になっているような効果のある成分が見つかった場合、その男と交渉して製法なりなんなりを聞き出す必要がありますから、今のうちにその男の素性を洗い出しておいた方が良いでしょう』
『そうだな。素人相手だ、少々の金を見せるか脅せば何とでもなるだろう』
ほう。少々の金と脅し。いいんじゃないか。ただ問題はこの俺が相手だということだけどな。これは面白くなりそうだ。
会話はそれ以上続かなかったが、大いに期待感が膨らむ。相手はどうもどこかの企業。研究所とか言っていたから、おそらく製薬会社か何かだろう。ただ相手を叩き潰すだけではもったいない。
そこは追々考えるとして、相手は俺のおおまかな素性は掴んでいるようだ。今までと違いこちらが受けに回る可能性もある。ならば、こちらの弱点となりうるものを先に1つずつ潰しておくとしよう。
俺の弱点といえば、やはり美登里をはじめとした家族だな。その次は、中川や村田といった知人たちだが、知人ではインパクトに欠ける。やはり第3者的に考えれば、狙う相手は美登里だな。
さっきの男には1型の蜘蛛を付けておいたが、美登里には2型を付けてもしものことに備えておくとしよう。何もないに越したことはないが、2型が美登里にくっ付いていれば何かあってもすぐに助けに行けるからな。
善は急げ。さっそく家に帰って美登里に2型の蜘蛛をくっ付けてしまおう。
わが家まで駅前の今いる場所から歩いて10分。
「ただいま」
「お帰んなさい。今日は早いのね」
母さんに迎えられた。
「またすぐに出て行くから」
「あら、そう。お昼は今日もいらないのね?」
「外で食べてくるから大丈夫」
台所の母さんと会話をしながら二階へ階段を上り美登里の部屋の前で、
「美登里いるか?」
ドアをノックしながら声をかけてみたが返事がない。
「母さーん、美登里知らない?」
「美登里ちゃんは友達と隣街の複合ビルで映画を見るっていって出てったわよ」
「ふーん。ありがとう」
「なんか用事でもあったの?」
「いや、何でもない」
美登里がいないのなら仕方がない。母さんにも美登里に付けようと思っていた2型の蜘蛛を取り付けて家を出た。2型はあと2機しかない。ポーションの補充にこんどあっちに戻った時についでに少し作らせておこう。
美登里の他は父さんと、中川、村田に吉田か。ここらは1型でいいな。ひどい目にあってもエリクシールは人数分以上ある。肉体的、精神的ダメージをいくら受けていようと死んでさえいなければ何とでもなる。
もう一度事務所に戻って、すぐに中川に蜘蛛を取り付けた。村田は学校に行ってからでいいだろう。吉田についてはいつになるかわからないが今度会った時だな。吉田からちょくちょくメールが村田のところに送られているようだから次に吉田に会うのもそんなに遠くないだろう。
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