第43話 倉庫のなか


 ポーズをとったまま固まってしまった大男と眠らせたチンピラどもを残して、レンガで出来た壁に開けた孔から倉庫の中に入ると、フォークリフトが1台と透明ビニールで周りをくるんだ一抱えはありそうな包みが奥の方にぎっしりと積み上げられていた。手前の壁際には地下に続く階段があり、その先から大声で何か言いあっている声やガタゴト音がする。


 どうも、〇×市でおっさんに教えられたここは、大陸系の連中の本拠地というよりも見たまんまの倉庫らしい。いったんここは放っておいて音のする地下に行ってみるとするか。


 薄暗い階段を降りると、頑丈そうに見える鉄製の扉があった。取っ手を持って押してみると鍵がかかっているのか開かない。そのまま、取っ手をねじ切って、扉を蹴飛ばしてやったら扉が向こうの方に跳んで行った。ちぎれて半分残った蝶番を見ると今の扉は手前に引かなくてはいけなかったようだ。こういうこともある。どうせ他人のものだし、壊れるのが幾分早まっただけだ。


 扉を蹴飛ばしたところで、中から聞こえていた音や声がぴたりとやんだ。ほほう、俺を待伏せしようとしていたのか? 扉の外からでは中の様子は暗くてはっきりしないが、15メートルほど先に10人ほどいることが気配で分かっている。


 それじゃあちゃんとお出迎えしてくれよな。


 アイテムボックスから先日花菱組のビルから拾ってきたままになって忘れていた金庫を人の気配のするすぐ近くに出してやった。


 パパパパパパ。パパパパパパ。


 キューン、キューン。


 軽快なマシンガンの発射音と弾丸が何かに当たって跳ね返される音が前方で響き渡るとともに4、5人分の悲鳴が上がった。


 狭いところで硬いものに銃を乱射したら危ないってことを身をもって体験したようだ。跳弾ちょうだんはどこに飛んでいくか運任せだからな。


 マシンガンの発射光で見えた部屋の中には、大きな木箱が何個かバリケード状に置かれていてその後ろからマシンガンを撃っている。自分たちが撃っていたのが鉄の塊だとやっと気付いたようでマシンガンは鳴りやんだが、うめき声は続いている。声を上げたらダメだろう。どいつもこいつも、悪の戦闘員としての自覚が足り無いようだ。


 それでは、そろそろ俺も歓迎されてやろうじゃないか。


『ライト』


 強めに照明魔法のライトを唱えてやると、部屋の中が眩しい光で照らされた。さすがにマシンガンの銃弾程度では金庫は何ともなかったようでしっかり立っている。その金庫を忘れないようにアイテムボックスに仕舞ってやった。これだけ部屋の中を一気に明るくしてやったので連中も目がくらんだはずだが、一度は止んだマシンガンがすぐに乱射され始めた。やみくもに撃たれたマシンガンの弾だが、数が数だ。相当数が俺に当たってピシピシというような変な音をたててへしゃげて床に転がる。そういえば、俺は『ステルス』中だった。そう考えると、こいつらヘッポコ戦闘員だとはバカにできないな。


 マシンガンの音が続いていたのが止み、奥の方からドジョウ髭の男が現れた。


「オマエモヤン老子ト同ジク、金剛力士ヲ使エルノカ?」


 こいつも、俺の気配程度は分かるのか? へしゃげた弾が床に転がってれば、誰でも分かるか。俺が黙って立っていると、ドジョウ髭がまた喋った。


ヤン老子ヲタオシテココマデ来タノカ? 名前ハ何トイウ?」


 答える必要はないので黙っておく。


『ヤンロウシ? ああ、さっきの大男のことか』


「バカなのか? 我々ハ上海紫幇ツーパンノ者ダゾ。紫幇ノ意味クライオマエデモ知ッテイルダロ?」


『ツーパン? なんだ? まさかパンツのことじゃないだろうし、全く知らん。帰ったらWikiで調べなきゃな』


「ソ、ソウカ。マアイイ。ドウセオマエハココデ死ヌンダ!」


『どうやって俺を殺すつもりなんだ? さっきの豆鉄砲じゃ俺の体に傷は付かんぞ』


「グッ。オマエタチ何ヲシテル、ヤツハアソコニ立ッテル。マシンガンガダメナラロケットガアルダロウ。サッサトアノ男ヲ殺セ!」


 ドジョウ髭のおっさんの命令を聞いて、マシンガンを置いて2、3人が奥に引っ込みすぐになにやら濃緑色の筒を持って帰って来た。


 まさに、悪の幹部の言い草。あの筒がロケット弾か。物騒なものを持っているようだが、幹部なら自分の部下の戦闘能力が悪の戦闘員としては3流以下ということくらいちゃんと把握していた方が良いと思うぞ。


 3人ほどがそれぞれ緑の筒を肩に担いで、筒先を俺に向けて来た。当然筒の後端は後ろを向いている。おいおい、後ろに人がいるのにロケット弾を撃っていいのかよ。後ろのヤツが大やけどするぞ。


 シュバッ!  シュバッ!  シュバッ!


 全部撃っちゃったよ。


 後ろの連中に火が付いて大騒ぎを始めたよ。あちゃー、着てるものが燃え始めたぞ。誰か火を消してやれよ。大やけどじゃないか?


 こっちに飛んできたロケット弾はなんかの役に立ちそうなので3発そのままアイテムボックスに収納しておいた。


「何ナンダコイツハ化ケ物カ?」


 ドジョウ髭の分際で、全く失礼な奴だ。


「オ前タチ、コイツヲココデ死ンデモ食イ止メルンダ」


 ドジョウ髭が奥の方にある通路に引っ込んでいった。引き際で部下を犠牲にする判断力。素晴らしい。俺にはできないが悪の幹部としては及第点をやろう。それに引き換え、午前中の悪の幹部は部下を見捨てずちゃんと部下の分まで金を払ったな。あいつはこの組織じゃ出世できんな。


 鉄砲も効かない、ロケット弾も効かない。部下に具体的な指示も出さずにドジョウ髭は逃げて行ったんで、子分たちは誰も何もできずじっとしている。そろそろ飽きてきた。


『スリープ』


 お前たちは、そこで寝ていろ。バタバタと倒れ込んだ悪の戦闘員の数は20人ほどだった。意外と少ない。


 ドジョウ髭の引っ込んでいった通路の先にはまだ人の気配がする。行ってみるか。通路の途中、学校の教室ほどの部屋が何個かあったが、鍵もかかっていないし中を覗いみても目ぼしいものは見当たらなかった。





[あとがき]

異世界ファンタジー『真・巻き込まれ召喚。 収納士って最強じゃね!?』https://kakuyomu.jp/works/1177354054894619240 宜しくおねがいします。

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