第42話 港の見える倉庫街


  中川と連れ立って入ったラーメン屋で中川は野菜たっぷりのタンメンを頼んだ。こういった店では、チャーシュー麺がもっとも原価が高い商品だそうだ。店に恨みはないが、俺はチャーシュー麺を頼み、それなりにおいしくいただいた。ちなみに今掛けている俺の作った伊達メガネはそれなりに高品質なので、湯気で曇るようなことはない。


「中川、昼からまた出かけてくるから、適当な時間で帰ってくれていいから、事務所の戸締りは頼む」


「また出かけるの? 結構霧谷くんも忙しいのね」


「そうだな。それなりに稼いでくるよ」


「何するのか知らないけど、まさか危ないことなんかしていないわよね」


「そりゃあそうだろ。俺はまだ高1なんだぜ」


「それならいいわ、行ってらっしゃい」



 ラーメン屋を出たところで中川と別れ、俺は最寄り駅から電車に乗っておっさんに聞いた倉庫街のある街まで行くことにした。


 電車で2時間ほど揺られてその街に到着したのだが、詳しい場所は分からない。


 海がある方角に歩いて行けばいいんだろうと歩いて行くと、20分ほどで港の近くの岸壁に出た。ずっと沖の方に貨物船なんかが見える。そこを曲がった先にあるレンガ造りの赤黒い大きな建物が並んでいる場所が倉庫街なのだろう。


 そちらのほうに岸壁沿いの道を歩いて行くと、道行く人もだんだん減っていい雰囲気になってきた。


 それではそろそろ準備するか。『ステルス』からの戦闘服への早着替え。


 よし、ここからは突撃レポーターだ。


 いました、いましたよー。人相の悪い連中が赤レンガで出来た倉庫の前でたむろしています。ひー、ふー、みー、……。全部で8人。結構いますです。この連中ですがやはり訳の分からない言葉を仲間内で喋っています。それでは、彼らに近寄ってみましょう。


 あっ! タバコの投げ捨て。これはいけません。見過ごせません。投げ捨てたのはこの顔の四角いあんちゃんです。仲間内での会話に夢中のようです。それでは、投げ捨てられたままでまだ火のついているタバコをポケットの中にお返しして差し上げましょう。さて、どうなるでしょうか? 時間も押してますから少しポケットの中に空気を送ってみます。


 火の点いたタバコをポケットの中に入れ、ついでに送風してやったら、タバコの煙とは違う煙が上がった。


「ウォッチッチ!」


 自業自得だ。周りのみんなは大笑いしている。いい娯楽になったようでなによりだ。なかなか面白い連中だな。


 そういえば、俺は何しにここにやって来たんだろう? こいつらを見ているうちに忘れてしまった。まあ、とりあえず、ここを壊しておくとするか。単純に圧縮弾を撃ち込んで壊していけばいいな。本拠地って言うくらいだから、大きな物音がしたらそのうち中から人が出てくるだろう。適当にあしらってから中に入って拾い物でもするか。


『圧縮弾!』


 別に魔術名を唱える必要はないのだが、気分の問題だ。


 ドーン!


 直径10メートルの空気を直径1メートルまで圧縮すると気圧は1000気圧になる。その空気の塊りが赤レンガでできた壁を吹き飛ばした。1平方センチ当たり推定1トンの力だ、たいていのものは吹き飛ぶ。今の爆発もどきに驚いた8人が8人とも大声で騒ぐものだから非常にうるさい。


 人がこちらにやってくる気配がするので何が出てくるか待っていると、大きく開いた壁の中から黒の上下の中華風武術服を着た大男がのっそりと現れた。


 なんだ、こいつは? 身長が2メートルはあるんじゃないか? しかもゴツイ。見た目の迫力だけはあるな。


「姿ヲ見セロ。俺ニハキサマガソコニイルノガ見エテイルゾ」


 ほう、俺の姿が見えるのか? 楽しめそうじゃないか。着ている服からしてこの男、中国拳法でもするのかね。さっきまで騒いでいた連中もおとなしくなって男の方を見ている。横から見ると、俺が見えない中、ひとり芝居をしてるように見えるだろう。それはそれで面白そうだ。おっ、やっぱり2、3人笑いをこらえてる。こいつら笑いの沸点かなり低いな。売れない芸人の救世主に成れるかも知れないぞ。


 姿を見せろと言われて姿を見せる義理はない。ちゃんと見えてるんなら『姿を見せろ』って言うわけがない。ホントはちゃんとは見えてないんだろ? 正直にそう言え。


 えぐりり込むように打つべし! 打つべし 打つべし! フットワークを使いながら男に向けて恰好だけのジャブを3発ほど軽く出してやった。大男はパンチの風切り音にそれなりに反応していたが、そのスピードだと、本当に俺がジャブを当てにいってたら全部クリーンヒットしてたぞ。こんなのでいいのか? 


 おお、この大男、腰から木でできた2本の棒を取り出して構えたぞ。これはトンファーってやつじゃないか? 初めて見たが、そのトンファーは木で出来てるんだから俺に当たると折れたり砕けたりするぞ。


 俺としてもそんなもので殴られてやるいわれもないので、大男に近づき左右のトンファーに向けてジャブを放ってやった。


 ビシッ! バシッ!


「ナ、何ガ起コッタ?」


 どちらのトンファーも破片を飛び散らせて真ん中で折れ曲がっている。大男はトンファーの持ち手を握っていた左右の手を傷めたようで、短くなってしまったトンファーを手放した。


「マアイイ、今度ハコチラカライクゾ。弾丸ヲモハジク鋼ノ体」


 大男が腰をかがめ、何やら両手を複雑に動かし、右手のひらを大きく広げて突き出してポーズをとって叫んだ。あー、これは東大寺南大門の金剛力士像のポーズだ。


「太極奥義、金剛力士!」


 大男の露出している皮膚の色が一気に灰色に変色した。体を固くしたのか? これはこれで凄い技なんだろうけど、それじゃあ素早く動けないんじゃないか? 動きたくないんならそこで固まっていろ。


『バインド16連』


 16重に拘束魔法をかけてやった。短くても3日間はこいつは恥ずかしいポーズをとったままだ。動かせるのは目玉だけ。その間、本人には意識はあるので、当然時間が経てば便意も催す。まさにふん・・だり蹴ったりな凶悪魔法だ。


 一人で大騒ぎしていた大男が目玉だけをきょろきょろ動かすだけでいつまでたっても動き出さないので、周りを囲んでいた連中が、恐る恐る寄って来た。


 俺もそろそろ飽きてきたし、倉庫の中で人の気配がするので、


『スリープ』。全員眠らせてやった。 




[あとがき]

異世界ファンタジー『真・巻き込まれ召喚。 収納士って最強じゃね!?』https://kakuyomu.jp/works/1177354054894619240 宜しくおねがいします。

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