第37話 事務所準備2


 俺と中川は駅の連絡通路を通りデパートの反対側にある複合ビルの中に入っている電気屋にやって来ている。


 大型の冷蔵庫が欲しかったのだが、家庭用だとそれほど大きなものを売ってなかった。結局700リットルのものと、400リットルの家庭用冷蔵庫を買うことにした。ポーションを置いておくのに冷凍室は不要なのだが仕方がない。


 ノートパソコンとFAX付きの電話機を選んだあと、電子レンジと湯沸かし用のポットも追加で購入し、同時に固定電話とネットの申し込みも終わらせた。ノートパソコンのような小さなものは持ち帰ることにした。大物の配送も電話とネットの工事も明日中になんとかしてもらうことが出来たので、あと必要なのは金庫だけとなった。


「何だか、私達のしてることって婚約した二人がいろいろ家具とか電気製品を結婚する前に揃えてるみたいよね」


「ああ、事務所には何にもないからな。これでベッドでも買えば新婚さんそのものだな」


「……」


「中川、赤くなってどうした?」


 相変わらず訳が分からないところで、訳のわからない反応をするヤツだ。



「これで、後は、金庫だな。ネットで買うしかないか」


「金庫はホームセンターで売っているみたいよ。この近くのホームセンターっていうと、隣の駅で乗り換えて二つ目の駅の近くにあったわ」


「その前に、そろそろ昼だから、ここで食べてから行こう」


 昼食は今いる複合ビルに入っていたイタリアンの店で、俺はいわゆるミートソース。中川はラザニアを頼んでいた。上品な店だったせいか俺にも中川にも量が少なかったようだ。


「霧谷くん、量が少なくない? これだと後でお腹がすきそうだわ」


「そうだな、これだけだとちょっと足りない気がするな。追加で何か頼もう」


「それじゃあ、メニューにあるこのピザを二人で分けて食べない?」


「エビが乗っかてるのか。美味しそうだな。じゃあそうしよう。ついでにデザートも一緒に頼んどくか、食べるだろ?」


「うん。私はモンブランが食べたい。飲み物は紅茶かな」


「それじゃあ俺は、イチゴショートにしよう。俺も紅茶だな。

 すみませーん」


 ……


 昼食の後、電車に乗ってホームセンターに寄り金庫を中、小各1個買い明日配送を頼んだ。あと、目に付いた雑貨も買っておいた。



 これで、明日届いた荷物を整理すれば、事務所開きだな。





「それじゃあ、中川、今日はありがとう」


「明日9時ごろ事務所に行けばいい?」


「来てくれるのならいつでもいい。ああ、これを渡しとこう」


 そう言って、事務所のスペアキーを渡しておいた。それと、お互い連絡できるようスマホの連絡先を交換した。ライ〇とか便利らしいけど俺は使ったことがないんだ。


 最寄り駅に戻ってその日はそこで別れた。



 次の日、俺は8時半ごろ家を出て、事務所に入った。

 部屋の中にはまだ何もないので、アイテムボックスに収納していた物をいったん邪魔にならない場所に取り出しておいた。


 そうこうしていると、

「おはよう」ドアが開き中川がやって来た。


「おはよう。今日も来てくれて助かる」


「霧谷くん。もう私はあなたの従業員なんだから当たり前じゃない」


「いや、来週の土曜からでいいと思ってたからな。荷物が届くのは10時以降だし、電話なんかの工事は昼からだから、今のところ何もすることがないな。10時まで下でコーヒーでも飲んでるか」


「そうね」



 10時になったので、中川と事務所に戻り荷物の届くのを待っていると、すぐに荷物が届き始めた。大きなものを順番に指定場所に置いて行ってもらい、午前中にはほぼ大物は片付いた。さっそくポットで湯を沸かし、インスタントではあるがマグカップにコーヒーを二人分用意した。中川のマグカップはイチゴの絵がプリントされたもので俺のは無地だ。外に出て昼食を摂るのも面倒だと思って、事務所に来る道すがらコンビニで二人分買っておいた調理パンなどを取り出して二人で簡単な昼食にした。


 昼食を終え、しばらくすると今度は電話の工事屋さんがやって来た。すぐに配線は終わったようで、事務机の上にFAX電話とノートパソコンを置いて確認したところ問題ないようだ。


 大きい方の冷蔵庫の中にヒールポーションを入るだけ入れておいた。忘れていたが、小瓶をバラで渡せないから、土曜までに受け渡し用に中くらいの紙箱と緩衝材も用意しておく必要がある。近くの100均で買っておこう。小さい方の冷蔵庫にはミネラルウォーターを入れておいた。


 これで、本日の仕事は片付いたと思ってソファーに腰かけていたら、昨日買った雑貨の中の雑巾とバケツで、中川が軽く掃除を始めた。大した働き者なので感心してしまった。


「中川、そろそろ終わりにしよう」


「そう? もう少し掃除した方が良いかもだけど、来週来た時でもいいか」


「冷蔵庫を見てくれるか? 中には、今のところヒールポーションの(中)と(弱)が入っている。こっちが1本10万。こっちが1本50万だ」


「そんなに高いものなの?」


「高い方だと無くしちゃった小指なんかも生えてくるからな。そっち系統の人にはニーズがありそうだろ」


「それじゃあ、ここに来る人は、そっち系の人になるの?」


「まあそういうことだ。だけど心配はいらないぞ」


「ほんと?」


「それは確かだ。あとはそうだな。金庫の開け方は分かってるだろ。小さい方の金庫には現金を入れておくから、必要なら適当に使ってくれ。無くなりそうなら教えてくれればいい。昼食代はその中から出してくれて構わない。

 今日は付き合ってくれてありがとう。今日のお礼にこれを受け取ってくれ」


 そういいながら、アイテムボックスの中から『スタミナポーション(特)』を2本、『キュアポーション(強)』を1本取り出し中川に渡した。


「こっちの黄色い2本が『スタミナポーション(特)』だ、どんなに肉体的精神的に疲れていてもこれを飲めばすぐに元気になる。そして、こっちのピンク色の1本が『キュアポーション(強)』だ。それ1本で大抵の病気は治るはずだ。もしそれでダメだったら俺に知らせろ。何とかしてやる」


「なんで、そこまでしてくれるの?」


「言っただろ、一生面倒見るって」


「霧谷くん、ありがとう。前は一生雇うって言ってたけど、今度は一生面倒見るって言ってくれたのね」


「うん? 同じような意味じゃないのか?」


 あれ、今度は涙ぐみ始めた。わからんヤツだ。


「従業員の福利厚生は雇用者の義務なんだから気にするな」



[あとがき]

カクヨムに投稿を始めて知らぬ間に1か月以上経ってました。なろうと比べカクヨムの方が投稿しやすいようで、ここまで1日1回投稿出来ました。また、PVがリアルで分かる上、話数毎のPVも分かるためPVの増加を見てて飽きません。

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