第38話 営業開始
「社長さん、用事があったら〇〇〇-〇〇〇〇に土日の9時から5時まで電話してくれるかい」
「ちょっと待て、メモするからもう一度言ってくれ」
「電話番号が〇〇〇-〇〇〇〇。土日の9時から5時までは事務所に人がいるから。薬が欲しいときは電話してから人を寄こしてくれ。用意しとくから」
「了解した。貰った電話で悪いが、さっそく土曜の9時に人をやるから、いつもの高い方20本用意しておいてくれるか? 代金1000万は振り込んでおく。ものの受け取りの時に振り込み確認書を見せればいいだろ」
「わかった。用意しておく。ここんとこ1000万単位で薬を買うけど社長さんのとこもずいぶん景気がいいようじゃないか」
「おかげさんでな。本職の方の仲間内に流してるんだ。やっぱり小指がねえと力も入らんし世間体が悪いだろ。それに、足を洗ったやつらにもニーズが高くてな。今までは小指もそうだが、彫り物が邪魔で温泉にも行けなかったからな」
「あんまり無茶しないようにせいぜい儲けてくれ。あと疲れが取れて元気になるスタミナポーションってのもあるが、今度試供品に(弱)を付けといてやるよ。売値は(弱)で1本千円だ、軽い風邪くらいならそれで直るんじゃないか(中)だと1万だ。ニーズがあるようならそっちも卸していくから」
「わかった。それじゃあな」
中川を帰し、俺は営業活動のため、森本のおっちゃんに電話したところだ。
これで、次の土曜から本格営業開始だ。
月曜日、学校でのこと。俺が「おはよう」といいながら教室に入ると珍しいことに中川がすでに登校し席に着いていた。
「霧谷くん、おはよう」
「おう、おはよう。今日は中川は来るのが早いな」
「霧谷くんに早くお礼が言いたくて。昨日、霧谷くんにもらった薬をお父さんに飲んでもらったの。お父さん、私の為に無理して働いてたんだけど、ここのところ食欲もほとんどない上に顔色が悪くってどうにかなっちゃうんじゃないかって心配してたんだけど、それが見違えるように元気になったの。本当にありがとう」
「そいつは本当に良かった」
いや、それは本当に良かった。やはり身内に具合の悪い人がいたようだ。それが父親ならそれなりに中川自身も無理してたところもあったんだろう。今日の笑顔は今までにないくらい輝いて見えた。
そういったこともあったが、月曜から金曜まで学校は特に問題なく過ぎていった。
そして迎えた次の土曜日。
8時半ごろ俺は事務所に入って、湯沸かしポットで湯を沸かしてインスタントコーヒーをマグカップに作って飲んでいると、手提げ袋を持って中川がやって来た。今日から中川は当事務所の正式社員だ。
「中川、おはよう」
「おはようございます。霧谷さん? 社長?」
「いや、霧谷でいいよ」
「そうよね、霧谷くん」
「今湯が沸いているから、中川もインスタントだけど、コーヒー飲むかい?」
「いただくわ」
インスタントコーヒーをイチゴのマグカップで作ってやり、中川に手渡した。特に何も言わなかったから俺と同じブラックでいいんだろう。
「ありがとう。そういえば、この事務所の名前はなんていうの?」
「名前というと?」
「電話に出た時、何て言えばいいのかしら?」
「ああ、そうか。名前がないとそりゃあ不便だよな。うーん。どうしようか?」
「ここって、ポーションを扱うだけなの?」
「今のところそのつもりだけど、他に何かあれば何をしてもいいわけだ」
「単純だけど、ローマ字でKIRIYAはどうかな?」
「それなら、KIRIとYAの間に『-』いれてKIRI-YAにするとカッコいいな」
「それじゃあ、電話に出たらそう言うわね」
「今日は、森本興業ってところから電話があると思う。ポーションを受け取りに来るはずだから、来る前に連絡してくるだろう」
「わかったわ」
中川は、持ってきた手提げ袋から勉強道具を出して整理し始めた。真面目に勉強するらしい。
そうこうしてると9時を回ったようで電話がかかって来た。
「はい、キリヤです。森本興業さまですね。はい、お待ちしてます」
「あと、10分ほどでヒールポーション(中)20本、森本興業さんが受け取りに来るそうよ。そこの箱と緩衝材を使って詰めておけばいいのね?」
「ああ、頼む。それと、スタミナポーションを試供品に付けるからこれも入れておいてくれ」
5本ほどスタミナポーション(弱)をアイテムボックスから取り出し、中川に渡した。
すぐに、10分ほど経ち、事務所のドアを開けて、兄ちゃんが入って来た。
「社長に言われて、
「森本興業さんですね。確認の上お持ちください。5本ほど試供品でスタミナポーションが入ってます」
美少女に応対されてお兄ちゃんが戸惑ったようだ。
「は、はい。えーと、20本と5本、確かに受け取りました。あっ、すみません。これが、えーと、何でしたっけ? そうそう振り込みの紙でした」
封筒に入った振り込み確認書を受け取り、中身を見るとちゃんと1000万振り込まれている。
「お気を付けてお帰り下さい」
「は、はい」
若い男は村田と同じく、美少女を見ると緊張するみたいだ。
ポーションの入った小箱を抱えて、森本組の兄ちゃんは帰って行った。
「別に問題なかったろ?」
「そうね、もっと怖い人がやってくるのかと思ってたけど、普通の人だったわね」
「そんなもんだよ。それと、今ので1000万の売り上げだ。だから、中川も月給30万くらいで気にしなくていいんだぞ」
「そういえば1本50万円って言ってたわね。でもいくら儲けが有るからといっても、そういう訳にはいかないわ」
「まあ、そういうところが中川のいいところだな」
あれ、また顔が赤くなった。感想を言ったまでで特に褒めたわけじゃないがな。
[あとがき]
ここ数回ラブコメ展開っぽくなってしまいました。次話から、少しハード的な何かに舵を切ろうかなと思っています。
短編SF『我、奇襲ニ成功セリ』
http://kakuyomu.jp/works/1177354054894691547
公開しました。よろしくお願いします
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