第36話 デパートからパをとると


 俺は中川と下のスタ〇でミルクの沢山入ったコーヒーを飲みながら買い揃える物を検討している。


「中川は、基本空き時間は勉強が主になるんだろ?」


「そうね、特に趣味が有るわけではないから、学校の勉強をすると思うわ」


「机と椅子は最初から揃えるつもりだったけど、本棚みたいなのがいるかもしれないな」


「そうね、あった方が良いかも」


「俺の方として、どうしても必要と思っているのは、ポーションを入れておくための大型の冷蔵庫と金庫だな。金庫は受け渡し用が1つと経費の出納すいとう用だ」


「電話番をするなら、固定電話が必要よ。電話工事は早めに頼んでおかなくちゃ」


「そうだった。ついでにパソコンも必要だからネットにつなげるようにしないとな」


「なんだか、本格的になって来たわね」


「そりゃあ、一応は事務所だからな。そういえば、一休みできるように長椅子の付いたソファーもあった方が良いな。あそこのデパートで家具を売ってたかな?」


「スマホで調べてみるわね。……、家具売り場は、6階だそうよ」


「あと必要なものは、なんだ?」


「そうね、お茶ぐらいは飲みたいからその関係かしら。あら、もうそろそろ出ない? 今から歩いて行けばちょうど10時よ」


「歩いて行くのか? 定期を持ってるんだし、電車の方が良くないか?」


「歩いてもすぐよ。天気もいいし歩きましょうよ」


「そうだな」



 そういうことで隣町のデパートまで二人で歩いて行くことになった。手持ちの現金が少ないので、最初に銀行に寄ってATMで50万ほど引き出している。


 二人並んで車道の脇の路側帯を歩いているのだが、前から人が歩いて来ると横に3人並ぶことになる。そのたびに中川と肩が触れるほど近づくことになるので、


「中川、縦に並んで歩かないか?」


「横に並んで歩くと何か問題でもあるの?」


 何だか強い口調でにらまれた。


「いや、前から人が歩いて来ると歩きづらいだろ」


「私は平気よ。それに縦に並んで歩いてたら遠足みたいじゃない」


「いや、それならいいんだけど」


 縦に並んで歩くと遠足だったのか。知らなかった。さすがは中川。


「霧谷くん、あなた中学の時みんなからなんて呼ばれてた?」


「ふつうに、霧谷きりやだけど」


「なんだ、面白みがないわね。私はね、名前が春菜だから春ちゃんって呼ばれてたの」


 そりゃ普通だろ。どこに面白みが有るのかわからない。


「でもね、むかし、榛名はるなって戦艦があったんだって。戦争中に沈没したそうよ。それで男の子たちからは、戦艦とか沈没って言われてたの」


 女の子に戦艦とか沈没はあんまりだな。それが今回の落ちだったら、笑うところなのか? 判断に迷うな。



 良くわからない会話をしながら歩いていると、中川の言った通り、20分ほどでデパートに着いた。


「まずは、食器売り場に行きましょう、6階よ。家具も6階にあるみたいだからちょうどいいわ。それじゃあ、すぐそこのエスカレーターで行きましょう」


「ああ」


 すごいな、中川がいて助かった。エスカレーターは狭かったのでさすがに縦に並んで遠足をしてもいいようだった。


 その後、マグカップやコーヒーセット、ガラスのコップ、スプーンや小皿などを食器売り場で買い、食器棚とソファーや事務机、机に合った椅子を買った。


 支払いは全部カード支払にしておいた。家具類は明日の午後には配送してくれるらしい。さすがにここには金庫はなかった。足らない物はあとでネットでいいだろう。さて次は消耗品、文房具屋やお茶とかコーヒーとかの消耗品だな。電気製品は駅を挟んだ東側のビルの中に量販店があったはずだ。そこでネットの契約も済ませてしまおう。


 そういった消耗品を買って荷物が多くなって持ちにくくなったので、いったんデパートの階段に行き、人目のないことを確認してアイテムボックスに収納しておいた。これも、中川を驚かせたようだ。


「何でもできるって言ってたけど、ほんとに何でもできるのね」


「普通の人からするとびっくりするようなことがいろいろと簡単にできるからな。だから、中川を一生雇うって言ったんだ。

 だいたい、このデパートだと、こんなところだろ。駅の向こうに行って電気製品を見に行こう」


「そうね。……ねえ、霧谷君、私達、二人でデパートに来てるんだけど」


「ああ、そうだな」


「デパートから、『パ』をとったら、デートになるわね」


「ああ、そうだな」


 なにを、中川は当たり前のことを言ってるんだ。別に話題がないからって、無理に話題を作らなくてもいいんだぞ。


 あれ? また不機嫌そうな顔になった。よくわからん奴だ。




[あとがき]

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