第16話 金村建設1


 翌日。


 俺は森本興業さんにもう一度お邪魔することにした。俺の知人にちょっかいを出さないように釘を差すためである。


 俺に直接かかってくるなら普通に相手をしてやるだけで済ませてやるが、俺の身内や知人に手を出したら、更地にするよ。いやマジで。


 森本興業さんの五階建てのビルの出入り口の前までやって来たのだが、扉は昨日の今日で閉まっていた。昨日蹴破った4階の窓には、ガムテープでベニヤ板が張られているようだ。

 

「ごめんくださーい」


 今日の俺は私服だ。Tシャツの上に薄手のジャケット。それにチノパン、スニーカー。


 返事がない。


「ごめんくださいーい」


 どうやら俺に気が付いてくれたようで、数人が階段を駆け下りる音が奥の方から聞こえてきた。


「ごめんくださいーい」


 出入り口の扉がいきなり開いて、中から3人ほどチンピラが出て来たのだが、どういうわけかみんな血走った眼付をしている。


「ごめんください。昨日お邪魔した霧谷でーす。今日は大事なオハナシがあって、社長さん?に会いに来たんだけど、取り次いでもらえるかな?」


 返事を待たずに出入り口に突っ立っていた3人を押しのけビルの中に。そいつらは、俺が掛けていた眼鏡を外して振り向いたら、動きを止めた。


 おいおい『だるまさんが転んだ』してるんじゃないぞ。


 まっすぐ進んだ突き当りにあるエレベーターで4階まで昇り、昨日窓から侵入した部屋のドアの前に立つ。


 後ろからは、さっきのチンピラ3人組が階段を上って来たようで息を切らせて立っている。


「社長さーん。いますかー?」


 そう言いながらドアを開け部屋に入ると、窓際に置かれた机の後ろの椅子に座った昨日のおっちゃんがいた。いたるところに、傷バンを貼って痛々しい。後退した生え際にも傷バンを貼っている。そのおっちゃんが俺をにらみつけてくる。


 今ではベニヤ板製になった窓もブラインドが下がっているので内側からはまるで目立たない。


「おっちゃんがやっぱりここの社長さん?」


「そうだ。森本興業の社長をしている森本だ。それで、お前は何しに来たんだ?」 


「オハナシに来たんですよ。それも大事な」


 ここでにっこり微笑んでみる。


「昨日のバイクスーツはお前なんだな。お前のせいで、何人救急車で運ばれたと思ってるんだ! わしも傷だらけだ」


「窓ガラスと社長さんの傷は悪かったね。それ以外、俺がなんかしたっていう証拠でもあるのかなー? ねえ? ねえ? そんなものないでしょ」


「ぐぬぬ!」


 おっ。リアルぐぬぬ。


「それより、鮫島っておっさんがチンピラをそそのかして俺の友達の村田を拉致って怖い思いさせたんだけど。それはどうしてくれるのかな?」


「鮫島はうちの専務だ。昨日お前が窓を破って現れた時、わしの隣に立ってたやつだ。拉致についてはわしは知らん」


「ハイ! 『部下が勝手にやったことだ。わしは知らん』頂きました。

 おっさん。そんなのが通用するわけないだろ? 俺は警察とか裁判所とかじゃないの。そんなに甘くないんだよ」


 後半は、ちょっと語気を強めに。 


「何が言いたいんだ?」


 俺の強めの言葉におっさんはビックっとしたらしい。


「誠意だよ。誠意! 誠意を見せてくれないと。言っとくけど、小指はいらないから」


 我ながらまさにヤの付く専門職である。


「いっ、いくらほしいんだ」


「だから誠意だよ。おっちゃんもそこらへんで同じように言ってんだろ?」


「うっ。ここに100万ある。これでいいだろ」


 おっさんが机の中から紙テープでまとめられた厚さ1センチくらいの札束をとりだした。 


「あのねえ。子供の使いで来てるんじゃないの。おっちゃん、俺をバカにしてんのか? そこに大きな金庫があるじゃないか」

 

 部屋の脇に置いてある重そうな金庫を指さして、掛けていた伊達メガネを外しておっさんの顔を覗き込んでやった。


 おっちゃんは、俺の目を間近に見て、及び腰になりながらもダイヤルを回して金庫を開けて中にあった札束を3つ取り出してくれた。 


「全部で400万だ。持ってけ!」


「毎度アリー。今回のことはこれで水に流すけど、次に俺の知人や身内にちょっかい掛けたら、このビルだろうと、あんたの自宅だろうと更地にするから。冗談じゃなく。じゃあな。バイバイ」


 いただいた400万を200万づつ上着の左右のポケットに入れる振りをしてアイテムボックスに収納。


「そうそう、忘れるところだった。おっちゃんのところの上位団体? 上位組織? そういったものがないかい? 調べればわかるけど一応教えてくれると助かるんだけどな」


「うちは建前上は金村建設の子会社だ。金村建設には行かないでくれ。頼む」


「わかったよ。聞いただけじゃないか。じゃあ今度こそさよなら。お金が無くなったらまた来るから」 


 我ながら、ヤの付く専門職のかがみである。


『行かないでくれ』と言われて『はい。そうですか』ってわけないだろ。専門職の鑑としては。


 金村建設のとばっちりでおっさんの小指がなくなったら、ヒールポーションを高額で売ってやろ。アフターケアーは大事だからな。



 金村建設をスマホで検索。


 ほうほう、結構大きな会社じゃないか。場所はここから意外と近い? 結構、結構。


 さっそく、金村建設に行ってみよう。



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