第15話 森本興業


 村田と別れた俺は、森本興業に文字通りの意味でお邪魔じゃますることにした。


 チンピラに問いただした森本興業の住所には、雑居ビルが立ち並ぶ通りに面して5階建ての細長いビルが建っていた。


 ビルの入り口の脇に「有限会社 森本興業」と、いかにもな看板がかかっているではないか。こういうのを見ると俺はうれしくなってしまう。ワクワクが止まらない。


 森本興業のビルを見上げると、4階の窓際に人の後ろ姿が曇りガラス越しに見えた。ここからジャンプして、4階の窓から入ってやるか。そうしよう、その方が登場インパクトがあるからな。


「トウ!」


 通りに人通りがないことを確認して、4階の窓に向かってジャンプ。


 掛け声を出す必要があるわけではないが、戦隊もののヒーローになったつもりでノリで口から出てしまった。こういった役にも立たないようなことは長いことご無沙汰していた割に不思議と覚えているものだ。


 物理的に舗装道路から力を入れてジャンプしたのだが、さすが建設大国日本。道路の舗装は俺のジャンプの衝撃に耐えたようでひび割れることもなく無事だった。


 シューと風切り音をたてて飛び上がっている途中で、学校の制服姿から戦闘服に着替えることは忘れない。ビルの4階までジャンプして、


『ラ〇ダー・キーック!』


 曇りガラスのはまった窓を蹴破る。


 ガシャーン


 窓ガラスが粉々に砕け散ってくれたらよかったのだが、まずいことにワイヤーが入ったタイプの窓ガラスだったようで、思うようにガラスが飛び散ってくれず、ちぎれたワイヤーが手足に絡みついてしまった。しかも、ワイヤーにはところどころガラスの破片が付いている。それで俺が怪我をするようなことはないのだがまらないことはなはだしい。 


 しゃがんだ姿勢で窓枠に着地し、絡みついたワイヤーを取りながら中を覗いてみると、小太りのうえ生え際の後退したおっさんが一人、立派な机を前にして座っていのだが、飛び散ったガラスの破片で、ちょっとケガをしたようだ。頬から血を流している。


 そのおっさんの横、俺の蹴破った窓のすぐ横に、がっしりとした体格の角刈りのおっさんが一人、このおっさんは上等そうなスーツを着ている。それにもう一人、パンチパーマのチンピラの3人だ。


 3人ともビックリしたようで窓枠に立った俺の方を何も言わずに見つめている。そんなに見るなよ。照れるだろ。


「こんにちは、鮫島さんて人いるかな? 俺は、柏木高等学校1年2組、霧谷誠一郎。ちょっと鮫島さんに用事があるんだけど」


 フルフェイスのヘルメットを被って顔を隠しているのに、素性は隠さなくていいのか? 別に顔を隠したくてメットを被っていたわけではないからセーフ。


「何だと、貴様は何だ!」


 いち早く復帰した角刈りのおっさんが俺に怒鳴る。


「さっき霧谷って言ったろ。耳悪いの? それともアタマ? あッ! 察し」


「この野郎!」


 いきなり、角刈りおっさんが窓枠立った俺に殴りかかって来た。ひょいとよけて床に立ち、軽く首筋チョップ。


 俺の軽い首筋チョップの一撃で意識を狩られた角刈りおっさんが前のめりになってガラスの破片のだらけの床に倒れ込んだ。うわー。痛そー。首筋チョップはなかなか力加減が難しいので素人はマネをしないように。最悪相手が死んじゃうこともあるからね。これほんと。


 離れて立っていたパンチパーマのチンピラ。言いにくいので、これからはパンチパーマンだ。こいつもようやく起動したようで、部屋の隅に立てかけてあった木刀に飛びつくと、それをやみくもに振り回して俺に迫ってくる。


 危ない!


 危ないのは俺じゃなくて、パンチパーマンの方だ。そんなに振り回したりしたら自爆するぞ。俺は木刀程度で殴られようが別になんともないので、少し油断をしているように後ろを向いたままで立っていてやった。


 これを誘いとは気付かずパンチパーマンは振り上げた木刀を思いっきり俺の肩口に打ち下ろした。自爆もせずによくやった。褒めてやろう。結果はもっと悲惨かもしれないがな。


ガキーン


 よほど堅い木でできた木刀だったのかいい音が部屋に響いた。どうも戦闘服に仕込まれた物理攻撃反射機能が働いたようだ。なかなかいい攻撃だったらしい。有効でない攻撃には物理攻撃反射機能は発動しないからだ。反射された物理攻撃でチンピラは手のひらを痛めたらしく木刀を取り落としてしまった。よく見ると手首が折れてブランとしている。顔も真っ青だ。


「パンチパーマン、俺を木刀で殴って満足したか?

 それと、生え際の後退したおっさん、さっきも言ったけど早く鮫島って人を呼んでくんないか? 用事があるって言ったろ」


 少し切れ気味に言ったのだが、おっさんがなかなか言うことを聞いてくれない。


 大きな音がしたせいかチンピラがまた湧いてしまった。全部で10人くらいいる。しかも全員目つきが悪い。面倒なのでこの部屋近辺の酸素濃度を5%まで下げてやった。


 低酸素の空気を一呼吸でも肺に入れてしまうと運動能力が一気に低下し失神してしまう。俺を除く全員が一瞬でへたな芝居の殺陣たてで切られた役者のようにようにバタバタとその場に倒れ込んだ。このままにしておくと、全員死亡してしまうので、すぐに元の酸素濃度に戻しておいてやった。

 

 一仕事終えたので、戦闘服から高校の制服に着替えてから部屋を出る。ビルの中の気配を探ると、このビルにいた全員あの部屋に集まって来ていたようだ。 


 結局、犯人?の鮫島がいるのかいないのか分らなかったが、ここまでやってしまったからには、些細ささいなことだ。いちいち全員をスキルで識別するまでもない。


 明日の土曜日、あらためて森本興業さんにお邪魔しよう。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る