第14話 廃屋にて


 廃屋の中に入ると、がらんとしたコンクリートの床の上にスチール椅子が1つ置いてありその上に村田がロープで縛りつけられて座っていた。目をぎゅっとつむった村田の回りにはさっきの2人組ともう1人、全部で3人ほどのチンピラ兄ちゃんがいる。


 村田、そこでしばらく寝ていてくれ。


『スリープ』


 どう見ても村田は暴力沙汰に慣れていないからな。


 俺が廃屋の中に入ったのにようやく気が付いたチンピラ3人組の中の1人が俺を誰何すいかした。


「なんだ、お前は?」


 いっちょ前にドスの利いた声だが、所詮しょせんは町のチンピラ。俺には効かんよ。


「正義の味方、ブラックマスクとは世を忍ぶ仮の姿。しかしてその実体は、柏木高等学校1年2組 霧谷誠一郎だ!」


 ここで、フルフェイスヘルメットを取って顔を見せてやった。


 あれ? 受けてない? まあ良い。教養のなさそうな連中では俺のジョークは分かるまい。しかし、こいつら今、俺の目を見てビビったぞ。失礼なヤツらだ。 


 床を滑るように一気に兄ちゃんたちに接近し、身構える間も与えず、そのうちの2人を左右の手でひとりずつネックハンギングツリーだ。こら、足をばたつかせて俺を蹴るな。服が汚れる。


 両手の塞がった俺を見て残った1人が、足元に転がしていたバールを拾い上げ、両手でそれを振り上げ後ろから俺に叩きつけて来た。


 カーン。


 俺の肩口を狙った一撃。


 いい一撃だったが、俺にそんなものが通じるわけはない。そいつはバールを叩きつけた衝撃の反射を手で受けたようで、バールを床に取り落としてしまった。


 バール男は放っておいて、さっさと用件を済ませよう。


「お前ら、自分らの思い付きでこんなことをしでかしたのか? それとも誰かに言われてこんなことをしたのか?」


 あごで、椅子に座らされた村田を指す。


 喉元を持って吊り上げられた二人がもごもご言っているのだが、俺の耳をもってしても何を言っているのかよくわからない。


 さっきバールを取り落とした男は手のしびれが引いたようで、バールを拾い直し、何度も俺に叩きつけてくるのだが、蚊ほどにも感じない。それを無視して、吊り上げた二人に同じことを聞いたが、相変わらずもごもご言ってて何を言っているのかさっぱりだ。


「もう一度聞くが、お前ら、誰かに言われてこんなことをしたんじゃないのか?」


 首元をブンブンゆらして聞いているうちに、二人とも文字通り反応が無くなってしまった。


 よく見ると二人とも口から泡を吹いてぐったりしてるじゃないか。しかも、こいつら息してない。


『レストア!』


 このまま、あちらの世界に旅立たれても面倒なので、とりあえず蘇生だけはしといてやった。


 二人を床に投げ捨て、いまも俺をバールで殴り続けている兄ちゃんに向き直る。


「ひっ! ひえー……!」


 兄ちゃんはバールを放り投げて、悲鳴を上げながら逃げ出していった。


 俺を何だと思ってるんだ? 返答次第じゃ手元が狂うかもよ。


 『ウインドカッター』


 音もなく放たれた空気のやいばが逃げ出した男の頭頂部の髪をきれいに剃り上げ、茶髪が宙に舞った。みごとなおかっぱあたまの出来上がりだ。いやおかっぱじゃなくてタダのカッパだった。


 床で伸びている二人には聞きたいことが残っているので、片方の兄ちゃんの頬をぺちぺちと軽く叩いて、目を覚まさせる。


「ブファ! ハア、 ハア、 ハア」


 泡吹いたよだれが垂れて汚いよ。


「おい! 兄ちゃん。誰かに言われてこんなことをしたんじゃないか?」


 椅子に座らされて今はいびきをかいて寝ている村田の方を顎で指してもう一度兄ちゃんに尋ねる。


 そいつが息をぎ喋ったところによると、森本興業の鮫島というおっさんにそそのかされたらしい。


 いわく、「弟分の仇を見過ごすのか!」


「ここで、落とし前を付けなけりゃ男じゃない」。云々うんぬん


 締めあげればもっといろいろ出てきそうだが、俺の知りたい情報は聞けたので、二人を解放してやった。


「そら、どっか行け」


『ひゅー』という擬音通りに、駆け出して行った。逃げっぷりだけは見事だ。こいつらも、カッパあたまにしてやったのは言うまでもない。


 俺の方は、一瞬でライダースーツ風の戦闘服から学生服に着替え、良い気持ちで寝ている村田を起こしてやる。


「レストア!

 村田、起きたか? もう大丈夫だ。悪いやつらは片付けた」


 これぞまさに戦隊ものヒーローのセリフ。


「えっ! 霧谷くんどうして?」


「村田が連れ去られたのが目に入ったから、追っかけてきたんだよ。ま、そういうことだ」


「ありがとうでいいんだよね。霧谷くん、きみの顔面の異常な硬さと言い、普通じゃないよね」


「そうかもな。気にするなよ。そんじゃ一緒に帰るか」


 帰り際の駄賃だちんに、ワゴン車の燃料タンクの中に俺のアイテムボックスの中にあった砂糖を転送しておいてやった。これでこの車のエンジンはお釈迦しゃかだな。


 こんなことのあった村田を一人で帰すのは心配だったので、村田の家まで送ってやった。着いた先の村田の実家は町医者だった。結構大きな内科の医院だ。


「じゃあな」


 村田の家の門の前で別れて、俺は自宅うちに帰っていった。




[あとがき]

自動車などの燃料タンクに砂糖を入れちゃダメ、ゼッタイ。良い子の約束だぞ。



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