第17話 金村建設2


 金村建設の社屋は結構大きなビルで、入り口玄関は両開きのガラス製の自動ドアになっていた。中を覗くと受付に女性が座っている。土曜日も仕事をしているらしい。関心関心。わが国のGDPに貢献してくれているようで何よりである。俺に対する対応いかんによっては、来期のわが国のGDPに貢献できなくなるかもしれないが、それは仕方ないことだよな。


 ドアを入って正面の受付に進み、お姉さんに用件を伝える。


「あのう、霧谷きりやという者ですが、社長さんに大事な用件が有るので、お会いしてお話ししたいんですが。取り次いでいただけますか?」


 受付のお姉さんはノートパソコンの画面を見ながら、


「霧谷さま、アポイントはお取りでしょうか?」


「大事な用件が急に出来たので、アポイントはありませんよ。社長さんに森本興業の不始末・・・の件で、霧谷が来たと伝えてもらえますか? 不始末・・・の件とはっきり言ってくださいね」


 受付のお姉さんがどこかに電話をかけている。


「社長室ですか? 受付です。いま受付に、霧谷さまという方がいらして、森本興業さんの件で社長とお話ししたいそうなのですが、いかがいたしましょう?」


「……はい、はい分かりました。10階第1応接室までお連れします」


「霧谷さま、10階の応接室までお連れします。どうぞこちらです」


 受付のお姉さんに連れられ、エレベーターで10階に上がり、一番奥の応接室に通された。


「こちらで、少々お待ちください」


 そう言って、受付のお姉さんが部屋を出ていった。


 部屋の壁には、大きな風景画が飾ってあり、その正面のソファーに座って待っていると、しばらくしてドアが開き、ビシッとスーツを着た銀縁メガネの出来るビジネスマン風、30代半ばくらいの男が入って来た。 


 普通は、ここでソファーから立ち上がって先方に挨拶するのだろうが、こっちは被害者代表(笑)のつもりだ。そのまま座っておく。


「社長秘書をしております影山と申します」


 俺の向かいのソファーに座りながら、男が名刺を差し出した。


 こいつも、ビジネスマナーなってないな。俺も、見た目は高校生だし仕方ないか。


 差し出された名刺を左手でひょいとつまんで一瞥いちべつ


『社長室 課長 影山正文』。とある。


「社長の金村は所用で出かけておりますので、私がお話を承ります」


「そうですか。社長さんとお話ししたかったんですが。まあいいです。

 ええとですね、オタクの子会社の森本興業の社員さんが、僕のクラスメートを拉致して暴行を加えようとしたんですよ。

 なんとか暴行だけは未然に防げたんですけどね。先方が謝罪に誠意を見せたものですから、今回は穏便にその謝罪を受け入れたわけです。でもね、こういったことがまたあってはいけませんから、森本興業の親会社である金村建設の社長さんにそこのところの念を押そうと思って伺った次第です」


「そんなことがあったんですか。にわかには信じられませんが、前後関係を確認して、社長に伝えておきます。もしそのような事実があったのならばしかるべく対応させていただきます。失礼ですが、そちらの連絡先を伺ってもよろしいですか?」


「霧谷誠一郎と言います。スマホの番号はこれです。そんじゃよろしくお願いしますね」


 俺はこんなこともあろうかとスマホの番号と名前を書いたメモ用紙を影山と名乗る男に渡し、席をたって応接を後にした。


 影山氏はエレベーター前まで俺に付いて来て、呼んだエレベーターに俺が乗り込むと、そのエレベーターのドアが閉まるまで俺に頭を下げていた。



 仕込み終わった俺は、金村建設のビルを出て、ぶらぶらと自宅に向かって歩いて時間を潰している。


 小型蜘蛛型特殊作戦用ゴーレム。昔、あちらの世界で必要に駆られて作成した逸品だ。足を広げても大きさは、約1センチ。ステルス機能。神経毒をはじめとした各種毒攻撃。転移機能。非常に高性能なゴーレムだ。こいつは表皮にマナ吸収機能を持つ素材を使用しているため、稼働時間に制限はない。先ほどの訪問時、俺は影山のスーツの襟元にこっそり憑りつかせた。


 今は、電話中の影山の声を拾っている。電話の相手の声も無論拾える。


「もしもし、森本興業の森本さんですか? 金村建設の影山です」


『ああ、影山さんですか。森本ですが何か?』


「ええ、先ほど、わが社に霧谷と名乗る若い男がやってきましてね。森本興業にとんでもない目にあわされたと言ってきたんですよ。森本社長、何かこのことでご存じありませんか?」


『申し訳ありません。昨日うちの若いもんが、社長の坊ちゃんにいいとこを見せようとして、その男の知り合いを拉致したみたいなんです。ちょっとばかし痛い目に合わせてやろうと軽い気持ちでね。

 そしたら、その男がうちにやって来たんですよ、どうやってやったのかはわかりませんが4階の窓を蹴破って。それで、ごたごたしているうちに気が付いたら事務所の全員倒れていて、その男もいなくなってました。うちの社員のうち何人かは泡を吹いてるし、4人ほど救急車で運ばれました。えらいことになったと思ていたら、1時間ほど前に、その男がまたうちにやってきて、落とし前をどうつけるんだとすごんで来まして。

 こちらはあんなのには金輪際関わりたくないもので、金を渡して引き取ってもらいました。金村建設さんには迷惑はかけないようにと言っといたんですが、そちらにも顔を出したんですね。とにかくあの目はいけません。今までこの世界で何十年も生きてきましたが、あんな目は初めてです。

 相当な修羅場をくぐってます。手をだいちゃいけない相手だと私の勘がビリビリ来てます。身内に手を出したら更地にするとまで言われた時には、チビリそうになりました』


「そこまでですか。確かに目つきの悪い男だとは思いましたが」


『自分で高校1年生とか言ってましたが、あれで高1とかひどい冗談を言ってました。嘘を吐くのが下手なヤツは、バレてもどうとでもなると思っているヤツですから、逆に危ないヤツと思って間違いありません。とにかく、ちょっかいは出さないようにしてくださいよ。あれは何をするかわからない』


「わかりました。話はかわりますが、浪岡町の例の立ち退きの一件はどうなってますか。そろそろあの一軒家を取り壊さないと工事に遅れが出るんですよ」


『そっちの方は問題ありません。来週にでも出ていくんじゃないですか。今日もうちの若いもんが出張でばってますから』


「安心しました。よろしく頼みます。まあ、何か問題があっても、海原先生に対応お願いしてますから大丈夫でしょう。それじゃあよろしく」



 浪岡町はうちの隣町、美登里の通っている中学、浪岡中学校のある町だ。俺の母校でもある。帰り道だし、ちょっと寄ってみよるか。


 しかし、森本興業のおっちゃん相当失礼なヤツだ。俺は精神年齢は22歳かもしれないがれっきとした高1だぞ。


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