第10話 懲罰行動1


 アガタリア王国王都アガリア、首都防衛隊司令部。


「飛行物体多数を検知しました。南方7時の方向より王都に高速接近中。飛空艇と思われます。これだけの数の飛空艇はわが国はもとより近隣諸国にはありません」


「近衛飛竜隊、迎撃に発進せよ。方向は南方、7時。高度は1000。急げ」



 ……


「近衛飛竜隊、全騎出撃」 


 隊長騎を先頭に、近衛飛竜隊総勢60騎が南に向けて一気に飛びたった。


 またたく間に上空に駆け上がった飛竜隊は、すぐさまクサビ形に陣形を整え、南を目指す。目標はすでに目視できるところまで接近していた。ゴマ粒のように見える飛空艇が数十。徐々に大きくなってくる。


 先頭の隊長騎が手に持った赤い小旗を2度ほど振る。飛竜による火炎弾一斉発射の合図だ。 


 ゴーという音を立て、飛竜から合計60発の火炎弾が飛空艇の集まる中心部に向け、打ち出される。


 飛空艇群は全く回避行動をとらず直進しているため、かなりの数の火炎弾が命中し爆発するのだが、黒い飛空艇の群れは何事もなかったように飛行を続けている。


 隊長騎が赤い信号旗を1回だけ鋭く振る。これは巴戦の合図だ。


 操竜騎兵に操られた飛竜たちは、散開しながら、黒い飛空艇に挑んでゆく。


 今、一騎の飛竜が射線上に飛空艇をとらえた。火炎弾を必中距離で発射しようと増速し飛空艇に接近した飛竜。今まさに火炎弾を発射しようと開かれた口、その上あごから上の部分が吹き飛んだ。頭部を失い即死した飛竜は、操竜騎兵を道づれに地面に向け墜落していく。


 王都上空に最初に侵入してきた飛空艇は葉巻を踏みつぶしたような形をしていた。不可視の攻撃を受け、墜落していく飛竜を横目で見ながら、投影面積も大きく速度の上がる上から攻撃しようと、数騎の飛竜が高度を取り逆落としに飛空艇に攻撃を加える。100mほどに接近したところで、火炎弾を撃ち込もうとしたが、どの飛竜も火炎弾を撃つ前に頭部を吹き飛ばされて墜落して行った。飛空艇から何かが打ち出されたというような目立った攻撃は見受けられない。まさに不可視の攻撃である。


 飛空艇に接近してその先端部を観察することが出来れば、先端部にたまに薄い橙色をしたソフトボールほどの光の玉が見えるはずだ。その光の玉が、フッと消えると、近くを飛んでいた飛竜の頭部がぜ、墜落して行く。


 飛空艇の攻撃手段の1つ、テレ・イクスプロージョンだ。


 直径2メートルほどの球形の空気塊を直径10センチほどに圧縮したあと目標内部に転送し、目標を内部から破壊する魔法攻撃である。体積が8000分の1に圧縮された気体は、圧力が元の圧力のほぼ8000倍になり、さらに急激な圧縮により発光するほどの高温気体の空気塊になっている。

 これが目標内で炸裂する。対象部位は内部から押し広げられるとともに、高温高圧にさらされ、融解、沸騰、蒸発の過程を一瞬に経て、見事に爆散する。圧縮空気塊は元の体積、気圧まで戻る過程で、急速に温度を失い、周囲を凍結させていきさらに被害を拡大させる。


 この攻撃を防ぐには、空間魔法防御用の魔法陣が必要となるのだが、空間魔法防御用の魔法陣は非常に複雑かつ大掛かりなものとなるため通常は設置型となり、飛竜などに装備させることはできない。


 そうこうしている間に、空を舞っている飛竜の数は10騎を切ってしまった。


 隊長騎はすでに撃墜されているため、生き残っていた副隊長は、攻撃継続を断念し、信号用の白色の小旗をゆっくり振りながら味方に撤退を促す。


 撤退命令に気付く前に、さらに3騎の飛竜が撃ち落されてしまった。生き残った飛竜隊の6騎は、王城にある飛竜隊営舎ではなく、王都東の訓練所を目指して脱出していった。良い判断だったと、生き残った隊員たちは後で思うことになる。



 王都上空に簡単に侵入した小型飛空艇24機は散開し、それぞれ、防空設備を捜索し、見つけ次第攻撃を加えていく。城の防御はバリスタが数機、青く輝く防御魔法陣が数か所、ファイヤーボール等を散発的に打ち上げている魔術士らしきもの数人。それらが見つかり次第小型飛空艇により沈黙させられる。


 瞬く間に目標を破壊し終わった小型飛空艇は、今は、王城上空を思い思いに飛び回っているだけである。


 やがて、8機の大型飛空艇が南の空から王都の中央にそびえる王城上空に侵入してきた。新たな飛空艇の形状は、ブーメランを寝かせたような感じ いわゆる全翼機型だ。先発の4機が腹の下の爆弾倉のハッチを開け、そこからパラパラと小型の爆弾を王城に振り撒いた。 


 着弾した無数の爆弾が閃光を上げると、石造りの王城の城壁や尖塔がドドドド、ババババ、ゴウゴウと轟音とともに破壊されてゆく。


 投弾を終えた4機は旋回し南の空へ戻っていった。


 最後に現れた4機の大型飛空艇が王城上空に侵入し、同じようにパラパラと小型の爆弾を振り撒いた。


 着弾した爆弾が閃光を上げると、今度は、炎が一気に燃え広がった。


 投弾を終えたこの4機も悠々と旋回し南の空へ戻っていった。


 王城上空を飛び回っていた小型飛空艇群もしばらくすると南の空へ戻って行き、後に残されたのは、かつて、王都アガリアの象徴とされていた王城の黒々とした煙を上げる瓦礫がれきの山だった。



[補足]

異世界ものですが単位は分かりやすくメートル法で表しています。

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