第9話 勇者パーティー


 今、魔界と呼ばれる大森林の入り口あたりで、勇者パーティー5人がゴーレム兵数体と戦っている。


「ハア、ハア……。こいつらいったいどうなってるんだ?」


「魔法攻撃がほとんど効かない」


「全力で切り付けても、傷が少し付くだけだ。それもすぐに再生する」


「みんな、弱音はくな。きっと何か手はあるはずだ」


「雄二、スタミナかけるよ!」


「睦子、俺にも頼む」


 ゾワ……。パーティー全員が鳥肌が立つような嫌な感じを受け、一瞬動きが止まった。


「今までにない強大な魔力反応だ。この大きさは、もしかしたら魔王が復活したのか?」


『まさか』


 パーティー全員は魔王復活の不安を胸に、自分たちを取り囲んでいるゴーレム兵と戦い続けている。


 ……



 全力で、ゴーレム兵と戦っていると思っていた勇者たちだが、実はゴーレム兵たちは戦ってなどいない。単に勇者パーティーを取り囲んで、適当に攻撃を受け流していただけっだった。


 そこに、アインに指示されたフュアが転移で出現する。


 フュアは近接戦闘に特化した、女性型マキナドールである。水色の短髪。濃い藍色のボディースーツ状の戦闘服。ぴっちりした戦闘服の肩から手首、脇から足首まで白いラインが入っている。その白いラインはうっすらと発光しているようだ。実はこのラインは、ただの模様ではなく、マナ吸収機能を持っている。彼女の腰には、やや太めの黒いベルト。そこには長さ1メートルほどの金属棒が吊り下げられている。これがフュアの通常武器らしい。


「ただの巡回中のゴーレム兵程度に苦戦しているようですが、あなた方が、自称勇者パーティーの面々ですか?」


「誰だ! お前もそこのゴーレムたちの仲間か?」


 勇者が1歩前に出てフュアに対峙した。


「質問に質問で答えるのは感心しませんよ。まあ私のは質問ではなく単なる確認ですから、あなたの質問にはお答えしましょう。私の名前はフュアと申します。マスターの側近のうちの一人ですが、あなたたちを囲んでいるゴーレム兵に命令する立場でもあります」


「では、お前は魔王四天王の一人なのか?」


「魔王? 四天王? 何をあなたが言っているのかわかりませんが、勝手にこの領域に進入して攻撃を始めたのはあなたたちですよ。

 まあ、マスターからも言われているので、少し遊んであげます。光栄に思いなさい。ケガはさせないように手加減はしますが、全力で来てくださいね。ゴーレム兵は手を出しませんから安心して良いですよ」


「舐めるな!」


 いきなり大剣でフュアに勇者が切りかかる。ギリギリで体をかわすフュアに、何度勇者が切りつけても大剣はかすりもしない。 


 そこで賢者がこれまでじっとして口の中で唱えていた呪文が完成した。


「雄二、そこをどいてくれ! グラビティー。 アース・バインド」


 前に出ていた勇者が、その声でさっとフュアから距離を取った。フュア自身は突っ立ったままだ。


 賢者に続き、魔導師の魔術も発動する。


「インシネレート。インプロージョン」


「サン・レイ」 聖女もただ一つ持つ攻撃魔法をフュアへ向ける。


 様々な攻撃魔法が、フュアに命中し、目もくらむ閃光が彼女を覆った。


「やったか?」


 勇者のお約束のフラグ通り、いったん魔法攻撃がやみ視界が晴れた後のフュアの姿はなんらダメージを受けているようには見えなかった。


 それでも勇者パーティーはあきらめるわけにはいかない。いままで攻撃に参加していなかった聖騎士が、見た目の派手な槍を全力で突き出してくる。当然のごとくフュアにはかすりもしない。逆に助太刀にと大剣を振り回す勇者と聖騎士とが危うく同士討ちをしそうになる始末である。


 何度目かの勇者の大剣攻撃。そろそろ飽きて来たのか今回フュアはかわすのではなく、その大剣の刃先を片手で受け止めた。それも右手の親指と人差し指で刃先を難なくつまんで受け止めたようだ。そして、そのまま大剣をつまんだ手を軽くひねる。


 バキン! 軽い音を立てて、勇者の大剣が刃先から30センチあたりで折れてしまった。


「攻撃が単調すぎると、簡単にかわせるし、このように簡単に武器をとられてしまいますよ。それと、刃の向きを振る方向に合わせないと、剣や刀は傷みます。普通なら、こんなに簡単に剣は折れませんが、相当無茶な使い方をしていたようですね。あなたのような素人に扱われて上等な剣が泣いていましたよ」


「な!!」


 勇者が顔をしかめる。


 フュアは折れた刃先を、ぶらぶら軽く振りながら、


「これ要りますか? もういらないですよね」


 勇者に尋ねるフュア。その返答を待たず、両手で折れた刃先を掴み、発泡スチロールでできた板のようにバキバキと粉々にしてしまった。


「あっ! ……」


 勇者の持つ聖剣エル・ダインの悲愴な最期だ。だが、勇者パーティーにとっての悲劇は続く。


「ついでに、そこの槍を持ってる人、その槍もかなり傷んでいるようですよ。そんな不良品はいらないでしょうから小さくして捨ててしまいましょう」


 フュアはそう言うと、一瞬で聖騎士との距離を詰め、聖騎士からその槍を奪い取り、両腕で持って、持ち上げた自分の片足の太腿にたたきつけ中ほどから二つに折ってしまった。


 聖騎士の持つ聖槍バルフィムの最期であった。


「それじゃあ、お帰りはあちらです。勇者パーティー(笑)さん。マスターの言っていた『(笑)』の意味がやっと分かりました。ありがとうございます」


 北の方を指さすフュア。まさに慇懃無礼。  


「……」 


 声もなく撤退する勇者パーティー(笑)であった。



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