第2話 帰還2


 俺は、コンビニ手前の歩道の上に、なんのエフェクトもなく出現した。そのおかげか俺がいきなり現れたことに気付いた人はいなかったようだ。気付いたとしても自分の目を疑うか見間違いと思ってしまうだろうから、どうなるものでもないだろう。


 せっかくだから、コンビニで漫画を立ち読みでもするか。


 漫画を読む前に、入り口近くに置いてあった夕刊の日付を見ると、ちゃんと7年前俺がいきなり召喚されたあの日の日付になっていた。


 勝手知ったるコンビニの雑誌コーナーに回り、お目当ての漫画雑誌を手に取ってページをめくると、不思議なもので7年間のブランクがあるにもかかわらず、連載漫画のストーリーをちゃんと覚えていた。


 一通り漫画雑誌を読み終わったので、しっかり棚に戻しておく。


 そろそろ家に帰るか。


 久しぶりの日本、わが町なので少し大回りをして、商店街を通って家に帰ることにした。当たり前だが、商店街は何も変わっていない。夕方の買い物客でそれなりににぎわっていて結構なことだ。


 物珍しくきょろきょろしながら、この店はこうだった、そうそうあの店はそうだったなどと思い出しながら商店街を歩いていると、道行く人の迷惑が気にならないらしく3人組のお兄さんたちが何やら話しながら横に広がって歩いていた。脇をよけて通る通行人にガンを飛ばしているのがかなりウザい。別に俺は正義の味方でも何でもないのだが、お兄さんたちの将来を心配して、少し注意してやることにした。


「おい、そこの兄ちゃんたち。往来の邪魔なんだよ。どいてくれるか」


「ああん。なんだ? このガキは」


 振り向いたお兄さんたちの中で、1番小柄なお兄さんが、俺をにらみつけてきた。


 そういえば俺の見た目、顔つきだけ・・・・・は15歳だった。そりゃあ、15歳のガキに舐めたことを言われたら腹も立つだろう。今日は7年ぶりの故郷に帰ることが出来て非常に機嫌のいい俺だ。慈悲の心をもって普通に応対してやることにした。


雑魚ざこども、どけ」


「何だと! 俺らを舐めてんのかー!」


「俺は魚を食べることは好きだが、おまえらを舐めるわけないだろ、キモイ奴らだなー。通行の邪魔だからどけ・・とやさしく言っている」


「おい、小僧。粋がってると痛い目どころじゃなくなるぞ」


 真ん中のちょっと立派なスーツを着たお兄さんが掛けていた眼鏡を持ち上げながらすごんできたのだが、これがこのお兄さんのキメポーズなのだろう。あごで両脇の2人に合図したようで、そいつらが俺の後ろに回り込もうとしている。

 通行中の人も道路の真ん中で言い合っている俺たちを敬遠して、避けるように遠ざかってくれた。


 往来での暴力沙汰はあまり好ましくない程度の分別は俺にも残っているので、スッとお兄さん方の間をすり抜け、商店街のつなぎ目のわき道に走り込みもう一度角を曲がった袋小路でお兄さん方を待つことにした。ここだと通行人もいないので人目を気にしなくて済む。


「小僧、待ちやがれ!」


 待っててやるから、早く来い。


「行き止まりだぞ、どこに逃げてんだ? バカが」


 自分たちが俺を袋小路に追い込んだと思っているらしい。何で、逃げた俺がここで待っているのか想像もできないのか?


 ……


「これにりたら、喧嘩するなら相手を選べよ」


 そういえば今の俺は小僧に見えるんだった。舐めた小僧を舐めた結果ではあるがある意味仕方ないことかもしれない。


 袋小路の入り口でよだれを垂らして伸びている3人組に向い、何の意味もない教育的指導をした後、俺はその場を後にした。




「ただいま」


 ガラガラと玄関の戸を開けて大きな声を上げる。


「あら、せいちゃん。お帰んなさい」


 母さんの声が台所の方から聞こえて来た。


 そういえば伝え忘れていたが、俺の名前は、霧谷誠一郎きりやせいいちろう、自慢の名前だ。


 俺は、玄関で脱いだサンダルを手に持ち、そそくさと2階の自室に上がり、速攻で着ているものを全部脱ぎ捨てて部屋の中のクローゼットから取り出した普段着に着替えた。もちろん下着も一緒だ。


 いくら細かいことは気にしない母さんでも、息子が下着を含め自分の見たこともない服を持っていたら不審に思うだろう。


 それで、こういった行動をとっているわけだ。脱いだものは一応アイテムボックスに仕舞しまった。ああ、こちらの世界でも問題なく魔法やスキルが使えることは還って最初に確認した。



 部屋の中を確認していると、すぐに夕食時になった。近所の友達の家に遊びに行っていた3つ下の妹の美登里みどりも帰宅し、家族3人で夕食の食卓を囲んだ。妹はこの春、俺の通っていた中学に進学する。父さんは、飲み会で遅くなるそうだ。


 ケチャップととんかつソースに少し砂糖を加えて作った甘めのソースのかかった大き目のハンバーグを箸で器用に切って、口に運ぶ。


 茶碗の中の真っ白いご飯を口に運ぶ。


 豆腐の入った味噌汁を口に運ぶ。


 おいしい。不思議なことに、なんだか目がじわっとしてきた。


せいちゃんどうかしたの?」


「なんでもない。目にゴミが入ったみたい」


「お兄ちゃん、なんだか感じ変。昨日まではそうでもなかったけど、今日は目つきもなんかおかしいし」


 わが妹ながら、鋭い。


「受験勉強で視力が低下したみたい。最近、目がしょぼしょぼするし遠くのものも見えにくいし」


 測ったことはないが、視力はおそらく、10.0はあるんじゃないだろうか。相当遠くのものまではっきり見える。妹に指摘されるようでは問題だ。これから高校に通うようになってもマズいから、伊達だてメガネでもかけて目つきの悪さを誤魔化ごまかすとするか。


「あら、大変じゃない。眼鏡屋に行って診てもらう? もうすぐ高校生なんだから、コンタクトでもいいけれど、コンタクトにするなら眼科に行かなきゃいけないわよ」


「眼鏡でいいから、明日にでも眼鏡屋に行ってくる」


「そお、じゃあ早めに行ってらっしゃい。1日でできると思うけど入学式前の方がいいでしょ」


「へえ、お兄ちゃん眼鏡かけるんだ。私は、絶対コンタクト」


せいちゃんはもう仕方がないけど、美登里みどりちゃんは目が悪くないんだから、いらないでしょう。目が悪くならないように勉強しないとだめよ」


「はーい」


 そんな会話をしながら、夕食を終えた。


 その日は、そのあと風呂に入り、かなり早い時間だったがそのまま寝てしまった。それなりに疲れが出たのだろう。午前0時頃父さんが帰宅したのでいったん目が覚めたが、すぐに眠りについた。


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