異世界で魔王と呼ばれた男が帰って来た!
山口遊子
第1話 帰還
高校の入学式をあさってに控えた4月のある日、俺は異世界に召喚された。
漫画雑誌でも立ち読みしようと、近所のコンビニに向かっているさなか、足元に青く輝く丸い輪っかが現れた。輪っかの内側には奇妙な模様が浮かんでおり、それがゆっくりと回転している。観察しているくらいなら、その輪っかから逃げ出せばよかったのかもしれないが、ついついその美しさに見とれてしまった。そして目の前が真っ白に。
それは異世界召喚だった。俺が召喚された先は、ラノベによくあるトンデモ国家だった。彼らはよその世界から人間を兵器とするため有無を言わさず召喚する。そうして、召喚した異世界人に訓練を施し、兵器として完成させる。兵器には人権もなければ自由もない。
最初の1年間は生きるために力を蓄え力を隠し、2年目の途中、すきをついて脱出に成功。古代のアーティファクト、マキナドール、アインと出会い、それから5年。全部で7年だ。その間に俺がそのトンデモ国家を滅ぼした。残念だが兵器となった同胞は全て俺が斃した。
そして苦心の末、帰還用転移魔法陣を作り上げた。帰還場所を俺の地球での自室、帰還時刻を7年前の召喚されたあの日に日時指定し、必要魔力量を計算したところ、膨大すぎて、とてもではないが実現可能な魔力量ではなかった。
その後、試行錯誤を重ね、最も魔力量が少なくて済む、というより、実現可能な魔力量なのは、俺が異世界転移させられた、同日時のある時刻。召喚されたその場所への帰還だけだった。おそらくその時刻は、俺が召喚されたまさにその時刻なのだろう。
同時刻、同じ場所に戻れるならば、俺が行方不明になって家族を心配させて困らせることも、友人たちを心配させることもないので非常にありがたい。異世界で7年間過ごした俺は、肉体的、精神的に大きく変化してしまっている。
今、22歳相当に大人びた顔をしたうえ、筋骨隆々のこの俺がもとの世界に戻って、両親に「急に老け顔、筋骨隆々になりましたが、僕はあなた方の息子の誠一郎です」。といきなり言うわけにはいかない。二人とも魂消ると思う。
拠点の全機能が正常に稼働していることを最終確認し、いまは俺の副官を務めるアインに、
「アイン、それじゃあ、俺はこれから準備を少しして俺の元いた世界に還る。見送りはいらない。後は頼むぞ」
「マスター、ご無事の帰還をお祈りします」
副官のアインに後を任せ、自室に戻る。
「1、2、3、……7。ちょうど7個」
俺はビー玉のようなライフストーンを7つ、左の手のひらに載せ、一気に握りつぶした。虹色の光が全身を包む。体感では変化を感じなかったが、これで7歳若返ったはずだがどうだろう。
姿見に映った俺の姿は、パンツ1丁の15歳?身長はあまり変わっていないが、肩幅が狭まった。顔はやや丸みを帯び、
「うーん。なよ坊よりはいいが、これで仕方ないか」
召喚された7年前に着ていた服も靴もとうの昔になくしてしまっているので、拠点内の仕立て屋(何でも屋)に細かく説明して作ってもらった現代風の上下を着こみ、そのとき一緒に作ってもらった一応現代風のサンダルを履く。召喚時に履いていたのはスニーカーだったが、どう説明しても現代風の靴は作れなかったのだ。
準備は整った。俺が苦心の末組み上げた帰還用転移魔法陣を設置した地下室に降りてゆく。
磨き上げた御影石を敷いた床の中央に設置型魔法陣が刻まれている。転移陣の外側、部屋の4隅に人の背丈ほどの時空相対標定器が立っている。
この時空相対標定器で、俺が召喚されたあの日あの時のあの場所と、この世界における移ろいゆく今とまさにこの場所との四次元相対位置を常に計測し、その結果を転移陣に反映させているので、理論的にはいつでももとの世界に帰ることができる。7年ぶりの帰還には、あとは転移陣の真ん中に立って起動術式を作動させるだけだ。拠点のこれからについては、副官のアインに指示を与え終えている。
『転移陣起動!』
目の前が真っ白な光に飲み込まれ、俺は地球へ、日本へ帰還した。
◇◇◇◇◇◇◇
[あとがき]
作者の山口遊子(ヤマグチユウシ)です。
お読みくださりありがとうございます。引き続きよろしくお願いします
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