番外編 ハラハラ幸の友心?

幼なじみの兄がパグになったらしい。


正確には少し違うか、頭部がパグに見えるのだと幼なじみは言っていた。


『頭バグった?』とその時はあしらったが内心私は動揺していた。


幼なじみのマサは兄がパグに見えるようになっても変わらず強引だし、元気なようだったが、私は今それどころではない。


何を隠そう私にもパグに見えているのだ。


幼なじみの兄、雄二さんがではない。


その妹、マサが。


私には、マサが、パグの子どもに見えている。



マサと、そして北村先輩に雄二さんがどう見えているのかは知らないが、マサが元々小顔だったからか小柄だったからか、幼いパグに見えている。


そうなったのは一昨日、いや、三日前のことだったか。


金曜日の放課後、マサが日直で、昇降口で待っていた時のこと。


階段をおりてくるマサの顔がパグになっていたのだ。


幾度と目を擦った。


それはもう、マサに『さっちゃんどうしたの?目になんか入った?』と顔を覗き込まれるくらい。


しかしマサは知らない、それが逆効果であることを。


人間の体をした子パグに覗き込まれるのはなかなかにインパクトが強い。


なんでもないとかわして土日の間に頭の中を整理することにした。



考えに考え、たどり着いた先は、私の、誰にも言えない感情。



私とマサは長い付き合いだ。


人生をマサに振り回されて生きてきたといっても過言ではない。


無論悪い意味は無いが。


私の家はシンママの美智みちさんの代わりに雄二さんが世話をしていたマサの家と似ているようで大きく違った。


シングルファーザーで、言いたくないが大きな会社の社長をしている父の代わりに、私は世話係に育てられた。


そのせいというのは少し悪いが、幼い頃に両親が傍に居なかった子はひねくれやすいのかわがままになりやすいのか、私は大幅にひねくれた子供になった。


『おかねがあるからなんとでもなる』と思ってるクソガキ。


それが私だった。


そんなクソガキを変えたのがマサ。


駄々を捏ねて世話係がスーパーに行くのについていった夕方、お菓子を棚に戻す子どもを見つけて私が声をかけたのだ。


「どうしたの?」


「かうのやめとくの」


「どうして?」


「おかねないんだって」


私にはお金が無いという概念がなく理解が出来なかった。


「さっちゃんがおかねあげる!」


「だめだよ!」


「なんで?」


「しらないひとからもらっちゃだめっておにいちゃんがいってたもん!」


「それに、おにいちゃんといっしょにかってたべるのがいっちばんおいしいからいいの!」


「いっしょにたべるとね、しあわせ〜ってなるんだよ!」


「しあわせ…」


そういった子どもはやがて兄らしき男の子に呼ばれて走っていってしまった。


世話係には教えられなかった。


一緒に食べてくれることもなかったし、私が言えばなんだって買ったから、買ってもらう云々に左右されることがなかった。


その時は私にあんまり関わりたくなかったのだろうと考えていたが実際は忙しかっただけらしい。


兎にも角にも私は一緒に食べることの幸せとか、全く知らなかった。


その日の夕食は、大好きな『おたかいおにくのはんばーぐ』だったのに、全く味がしなくて、


眠る時間になって私は泣き喚いた。


「さっちゃんもいっしょにたべる!」


「あのこがいっしょにたべるとおいしいって、しあわせっていってたの!」


「なんでぱぱはさっちゃんといっしょにたべてくれないの!」


「さっちゃんいいこにするからいっしょにたべたい!」


それはもう過呼吸になるんじゃないかというくらい。


世話係もこれに困ったようで、怒られることを承知で父に電話をしたらしい。


すぐに帰ってきた父は未だ泣きじゃくる私を見てごめんな、と只管ひたすらに謝って、そして抱きしめてくれた。


それからというもの父は夕飯だけでも毎日一緒に食べてくれるようになり、世話係もそれ以前より構ってくれるようになり、満たされるようになった私はクソガキから脱却することができた。


マサのおかげで変わることが出来た、と私は思っていた。


それから転入した幼稚園でその子ども、マサと出会って、すっかり忘れているマサに呆れながらも関わっていくことになって、ずるずる関係を続けていった、中学二年生のこと。


クラスの女の子達と恋バナをすることになった私とマサだったが、二人とも恋をしたことないといった事で女の子達はなにやら興奮して恋がどんなものか熱弁しだした。


「恋をするとね、すっごく楽しいのよ!」


「でも辛いこともいっぱいあるかも。」


「好きになるとその人のことで頭がいっぱいになって、何を考えるにも一番に出てくるの!」


「一緒にいなかったら寂しくなっちゃったり、他の子とたくさん仲良くしてたらイライラしちゃったり」


女の子達からどんなものか語られる度に、私の中で全てがマサに当てはまってしまって、そしてある一人の子が言った言葉で私は確信した。


「どんなに嫌なことがあっても、その人の笑顔を見れるだけで幸せってなるんだよ!」


私は、マサに恋をしている、と。



この現象には必ず愛が関係していると、私は思った。


私のマサへの歪んだ愛情はこんな形で現れてしまったのだと。


まさか、マサも雄二さんのことがそう見えるようになるとは思わなかったが、家族愛も含まれるのかもしれない。


何が原因にしろ、私にはマサがどう見えているのかを、私は隠し通したままで、マサの見え方を直さなければならない。

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パグと恋をする方法 佐々木実桜 @mioh_0123

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