逆戯れ転化
電咲響子
逆戯れ転化
△▼1△▼
「おい、どうする?」
ミスった。ひさしぶりに
適度に拷問しつつ対象から情報を得るのが目的だったが、俺たちはミスった。過度にやってしまった。
対象が死んだ。
「どうするもこうするもないだろ。包み隠さず話すしかない」
「それ、最悪殺されるぞ」
「承知の上での稼業だろ」
「……確かにそうだ。正直に言おう」
△▼2△▼
「ご苦労様。では、あの裏切り者から得た情報を話してください」
厳重に守られた女王の前で俺たちは
「はい。私どもは確かに奴を拷問にかけました。が、一切の情報は不明です」
「……? どういうことでしょう」
「結論から述べます。彼は拷問中に死亡しました。私どもがやり過ぎました。申し訳ありません」
すべて事実だ。
我が国の王に若くして
読心。
彼女にかかれば嘘を暴く、いや、隠し持つ情報を暴くことなど造作もない。つまり奴を引き連れてくれば解決したはずだ。が、なぜか自ら行動を起こさず俺たちに依頼してきた。
「報告書は読みました。そしてあなた方が正直者であると確信しました」
女王がしゃべる。
「だからこそ、今一度正式に依頼します。私の秘密を盗んで隣国へ亡命した裏切り者の
△▼3△▼
「厄介なことになったな」
薄笑みを浮かべつつ金貨ではち切れそうな麻袋を
「にやにやしてんじゃねえ! マジで厄介なことになったんだよ!」
「そうかあ? いつも通りやればいいんだろ?」
「奴には俺たち同様相棒がいたってことだ。ここでしくじれば、今度こそ命はない」
「背に腹はかえられぬ。ってか? このカネは情報屋にくれてやるさ」
彼は俺に金貨の詰まった袋を投げて寄越した。人一倍がめつい人間が簡単にカネを放り出す。要するに、だ。任務完了後の報酬はこれをはるかに超える莫大なものだと思っているのだろう。
「あの女狐が俺たちに約束通りの報酬を渡すと思うか? なにしろ領主にすらなれる金額だからな」
「知らん知らん。俺は
説得は無理。ならばやるしかない。
「ああそうかい。じゃあ協力してやるよ」
△▼4△▼
協力した結果、
「どうした? 貴様は立ち向かってこないのか」
瞬く間に相棒はバラバラになって死んだ。
男の持つ
「友人を殺されて引き下がれるかよ」
「ほう。貴様も死に急ぐか」
俺は背中にかついだ切り札を構える。
「なんだそれは」
「俺もよくわからん。吐かせ屋稼業の途中、
「……? 死を前にして気が触れたか。いさぎよく死ね」
敵が迫ってくる。俺はスイッチを押した。
△▼5△▼
耳を
同時に、俺の右手もめちゃくちゃに潰れた。自分が使った武器の衝撃で潰れた。
「とんでもねえ銃だな、これ」
俺は冷静に評価する。あまりの痛みゆえ、脳が痛みを感じていないのか。
ともかく仇は取った。
俺は満足し、帰路についた。
――――――――
「あはははははは!」
女王の前に
「最初から最後まで馬鹿な奴だったね! 利用されてるとも知らないで」
「教えてください。あなたの計画を」
「よかろう、下賤の民よ。冥土の土産に教えてやろう。数年前、我に刃向かう集団が結成された。内情は集団に潜入したスパイによって我が耳に入った。問題はどうやって秘密裏に壊滅するか。おおっぴらにやると暴君扱いされかねない。そこでお前たちを使った。吐かせ屋の仕事、実に見事だったぞ」
「…………」
「もはやお前に用はない。消え失せろ」
簡単なことだ。右手が駄目なら左手がある。俺はもうひとつのスイッチを押した。
△▼6△▼
キノコ雲とともに滅び去った王国を見ながら、相棒が口を開く。
「本当に俺を斬ってくれるとはな」
「信じてなかったのか」
「まあね。五分五分ってところか」
「ひでえ話だ。逆に尊敬するわ」
「一国を滅ぼすためには、これぐらいの演技力が
「ふん。"蘇生の銃"という
「あんたは"蘇生の刃"を持っていることを俺に明かした。で、それは本物だった。狂ってるぜ、あんた」
「ふん。どうだか」
「終わりよければ全てよし。ほら、報酬のカネ」
「このかばんの中にカネはなく、かわりに爆弾でも入ってるんだろ。なあ? 詐欺師さんよ」
「疑うなら開ける前に調べてみな。詐欺師さんよ」
「ふん。……信じるさ」
<了>
逆戯れ転化 電咲響子 @kyokodenzaki
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