第24話 来訪者
「どうやって金を集めたか」イーデンは周囲が固唾を呑んで見守る中、答えた。「実は僕、ロンドンは王立協会より派遣された研究員でして、北アメリカでの調査が済んだら貰うはずの報酬、その一部を前借したのです」
いけしゃあしゃあとホラ話をでっち上げたイーデン。聴衆の中にも信じがたい話に首を傾げる者が多数。そんな中、興味深そうに話を聞いていたアレクサンダー卿が質問をぶつけてきた。
「それほどまでに高給取りである、君のアメリカでの仕事とは一体何だね?」
「それは秘密です。但し、かのアイザック・ニュートン卿直々の勅命を受けてやって来たとだけは申しておきましょう」
ニュートンの名前を聞いて、聴衆が色めきだつとイーデンは考えていたが、まったくそんなことは無く、誰の事を言っているのだとポカンとした反応だった。科学に興味が無ければ、アメリカの一般人には縁のない名前なのだ。
「ねぇ、ホントはどうやったの?」
アメリカから2週間でロンドンと連絡を取り合うことなどできない。勘の良いシャーロットが彼の耳に小声で囁いた。
「説明すると複雑なんだけど、要はクルルの秘密の力のお陰さ。後で見せてあげるよ」
小声で返答するイーデン。胸元に下げた哲学者の水銀入りの革袋を誇らしげに彼女に示した。
「それじゃ、僕らは失礼しますよ!」
彼は花嫁の腕を取り、会場を後にしようと屋敷の方へと向き直った。これにて一件落着に終わるかという所で、黒人執事が屋敷の中から飛び出してきた。
「大変でございますご主人様!」
「結婚式がご破算になったばかりだというのに、今度は何だね?」
男爵の問いに執事が答えるまでも無く、猛烈な軍靴の足音が屋敷の中からドタドタと響いて来た。執事を追いかけるように出てきたのは、なんと植民地軍の一団。赤いジャケットに黒の三角帽子を被った兵士たちがイングリッシュガーデンを踏み荒らす。
総勢百名は超える軍団が結婚式会場の前で止まると、モーゼの奇跡のように左右に分れた。出来た道筋の先には、恰幅の良い大柄の大将が馬に跨っている。彼は騎乗したまま前に進み出てきた。
バージンロードの手前で止まり男は声を張り上げた。
「我はストートン家の相続人、ウィリアム・テイラー! さぁ、我が家の遺産を返して貰おうか?」
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