第17話 ならず者
「良く考えてみろクルル。僕たちはゴルキン族に捕まったんだぞ!」
「でもでも! 取り引きしたし、ここまで仲良くやって来たじゃないですか? それなのに、いきなり襲ってきた相手に味方するなんて絶対におかしいです!!」
涙ながらに訴えるクルルを見下ろし、険しい顔で睨み返すイーデン。そんな二人に、助けられた男が声を掛けた。
「おいアンタ! このインディアン娘、黙らせようか?」
「大丈夫。こいつは味方なんだ。あいつ等とは違う部族だ」
「確かに、言葉を知ってるみたいだな」
「ともかく、ここは僕に任せろクルル。哲学者の水銀だって、完成の目途が付いたし。居場所がバレている中で、あれだけ大人数の捕虜を抱えながら戦うなんてゴルキン族には無理だ。上手く連中を追っ払って、シャーロットを、みんなを助けるんだ!」
とりあえずキンクワージを縛り上げ、洞窟の外で腰を下ろす。介抱のかい虚しくモサはすでに息を引き取り、横に座ったクルルが何か祈りを捧げていた。
「するってえと、まだ40人も捕まってんのかい?」
イーデンの話を聞く、男の服装はドロドロに汚れたまま洗濯などしたことが無いような有様で、髪や髭もボサボサに伸ばしっぱなしでこれほど不潔な男は見たことが無いという程、酷いモノだった。
「そうなんですよ! 特にこの辺りでインディアン達と紛争になってるなんて聞いてなかったから、案内人たちは僕らを置いて逃げてしまうし、身代金の目処もたたないし、取りあえずは協力するフリをして命だけはながらえようとしてたんです」
「連中には、俺らも苦労させられてるぜ! せっかく見つけた、拠点にするのに丁度良い峠なのによ。クソ野蛮人どもが、邪魔してきやがるのなんの! 村を焼き討ちにしてやったから大人しくなったと思ったのに……」
「え? え? もしかして、ゴルキン族を先に襲って5人殺したのって、ええとなんて名前でしたっけ?」
「ヤブ睨みのモーゼスだよ! ぶっ殺したのが俺かって? もち決まってんだろ! ハハハ。害獣は駆除しなきゃなんねぇもんな!」
歯がほとんど抜け落ちた口を大きく開き汚らしく笑う彼を見て、イーデンはこの男を助けた事を後悔し始めていた。洞窟に隠された商品の中には、この場所では必要性が無いものも含まれていた。たぶん、この男と仲間たちは山賊なのだ。下手に、ゴルキン族の野営地を教えたら、捕まってる皆がどうなるか分かったもんじゃない。
「そ、そうですね! ところでモーゼスさん! お仲間は何人いて、今はどちらに、い、いらっしゃるのですか?」
「なんで、そんなこと知りたいんだ?」
意外と用心深いモーゼスに対し、心の中で舌打ちをするイーデン。
「ほら! ゴルキン族は戦士が100人以上いるから、仲間の移民団を助けてもらうお願いをするのに、お仲間さんの人数が居ないようなら、オールバニに戻って、植民地軍の助けを借りないといけないのかなって」
「それには及ばねぇよ。もうすぐ仲間も町から帰ってくらぁ。最新式の銃もあるしよ。俺たちが何とかしてやんよ! ところで、捕まってる仲間には若い女も大勢居んのかい? うひひ……」
「そ、それはどうかなぁ……」
ともかく、このままでは全員が危険だ。居留地を奇襲でもされたら、捕まっている移民団だって大勢犠牲にならざる負えない。イーデンは、どうにかしてこの難局を乗り越えようと思案する。
「うぅぅ……」
「お! 起きたぜこのゴミ虫が!!」
話の腰を折る形で、意識を取り戻したキンクワージに、モーガンが容赦のない蹴りを脇腹にお見舞いした。
「グェッ!」
「おいやめろ!」
イーデンが声を掛けるも、のた打ち回るキンクワージへの制裁は終わりそうにない。
「虫けらの分際で、人間様に盾突くんじゃねぇ! ゴミが!!」
「もうよせよ! 死んじゃうだろ!!」
「ダメー!!」
「すっこんでろ!」
脚に取り付いたクルルをモーガンは弾き飛ばした。
「キャゥ!」
「おい! 俺のクルルに、何すんだ!!」
イーデンは彼の胸ぐらに掴みかかった。しかし、簡単に腕を捻じり上げられ突き飛ばされる。
「へっ! テメェが
「おい! 彼女に近付くな!!」
「お? 盾突くのか? この俺様によ? こりゃあ、てめぇから躾けてやらねぇとな! お嬢ちゃん。へへへ」
近づいて来るモーガンのいやらしい笑みを湛えた顔を見て、イーデンは得体の知れない恐怖を感じた。じりじりと詰め寄られ、後退していた彼は、足を滑らせて尻もちを着いてしまう。
「おい! 何のつもりだ?!」
「なぁ、お前さん。よく見ると可愛い顔しているな。それに白くてスベスベした肌。赤や黒をヤッたことも有るけどよぅ。やっぱ、白い肌が一番、俺にはご馳走なんだなぁ! だと思わねぇか、かわいこちゃん!!」
「放せ! 止めろ!! 離れろ変態野郎が!!!」
覆いかぶさってきたモーガンは、イーデンのシャツに掴みかかり引き裂いた。顔に垂れて来る彼の涎を避けながら、何とか逃れようともがくも、ガッチリと馬乗りで押さえつけられてしまう。
「観念しろよ。誰も助けてくれる奴なんていねぇんだからよぅ!! なぁ、暴れると余計痛くなるぜ……」
「クソッ……、なんでこんな……ううぅ」
イーデンは絶望の中、抵抗を諦めて目を瞑った。モーガンの気味の悪い薄笑いをこれ以上見たくなかったのだ。モーガンが自らのベルトに手をかけるカチャカチャ音の後、ドサッとイーデンに覆いかぶさってきた。
「……あれ?」
モーガンの体重を感じながら目を瞑っていたイーデンだったが、それ以降、何の動きも無いことに気付き、恐る恐る目を開いく。どうやら、モーガンは意識を失っているらしい。落ち着いてきた事で、モーガンの酸っぱい体臭が鼻を突いた。
「オェッ!!」
覆いかぶさる体を突き飛ばし、地面を転がってからようやく立ち上がった。
「はぁはぁ、どうなってんだ?!」
「大丈夫ですか、イーデン?」
「クルル、お前が助けてくれたの?」
「しびれ蜂さんにチクッとしてもらいました。イーデンが死んだら、銀の水を作る人が居なくなっちゃいますから」
クルルの周りを飛ぶ、白黒の縞模様のアシナガバチの様な昆虫。そんな虫をもってるなら、もっと早く助けろよと言いたいところだったが、段々と先ほどの恐怖がイーデンの心に蘇ってきて、彼はうずくまってしまう。
「どうしました?! イーデン!!」
「大丈夫、大丈夫だよクルル。僕が間違ってた。同じ人種だからって悪い奴がいるのは当たり前じゃないか。それなのに僕は、酷い間違いを……うぅ」
「震えてるじゃないですか!」
クルルはイーデンの頭を胸で抱きかかえた。
「クルル?」
「喋っちゃダメです。震えが止まるまでギュッてしてあげるから……」
彼は彼女の優しさに触れて、いつしか涙がとめどなく溢れていた。
「ありがとう……、もう、大丈夫」
「まだダメです」
「何でだよ?」
「良いから、言う事を聞きなさいですよ」
「うん……」
彼女の鼓動が安らぎを与え、そのまま温もりに包まれていたいと彼は思った。しかし、誘惑を何とか振り払って、彼女の胸からその身を離した。
「これからどうしますかイーデン?」
「モーガンの仲間はゴルキン族を襲った山賊に違いない。だから、クルル。君とキンクワージは、このクソ野郎を連れて居留地に知らせるんだ」
「イーデンはどうするんですか?」
「僕は、ここに残る」
「そんなのダメですよ! 絶対ダメです!!」
「クルル」イーデンは彼女に向けて精一杯の笑みを見せる。「僕を信じてくれ。このままでは、ゴルキン族に勝ち目はない。僕が残って、山賊の事情を探る。そして、奴らの武器を使い物にならないようにして、ゴルキン族が勝てるようにしてやるさ!」
「嫌です! そんなの絶対に嫌です!!」
中々話がまとまらない二人に、縄を解かれたキンクワージが何事か口を出してきた。
「そんな、キンクワージさんまで……」
「何て言っているんだ?」
「それは……」
クルルが言葉に詰まる中、キンクワージはイーデンの肩に手を置いて話しかけた。
「お前を信じる。と、言っています……」
「クルルの事を任せたぞ! キンクワージ!!」
彼は無言で肯いた。
こうして、キンクワージの協力でクルルも最終的には折れ、イーデンを残して二人と抱えられたモーガンはその場を後にした。
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