サービス終了の運命に抗わない(終)

「くっ……まさかなんやかんやの理が破壊されてしまうとは……」

「やりましたね、キーン王子! 見事ソーシャ様の計画を阻止しましたよっ!」

「相変わらずの事だけど、なんでソーシャ生きてるんだ。物凄い破壊力の光線だったんだぞ」


 崩壊した最上階。そこで私はボロボロになりながら悔しそうな表情を浮かべる。

 先ほどの攻撃で世界を崩壊させる理が破壊され、私の計画は破綻した。アアアア嬢は計画を阻止できたことに喜んでおり、キーン王子は私が生存していることに疑問を抱く。

 こうなったら私は世界の崩壊などできなくなる。ここが潮時だ。


「ここまで断罪されてしまってはもう諦めるしかありません。約束通り、キーン王子との婚約を破棄しますわ」

「ソーシャ様、やっとキーン様を解放してくれるんですね……。嬉しいです……」

「そんな約束はした覚えがないんだが。婚約破棄は正直嬉しいけど」


 私はキーン王子からの婚約破棄を受け入れた。悲しい終わり方だが、キーン王子を幸せな婚約をするためには仕方のない事だ。


「そしてアアアアさんとキーン王子の婚約を認めましょう。良かったですわね、アアアアさん」

「はいっ! 私、一生キーン様の支えになりますねっ!」

「……待って、待って!? そんな婚約話、一度もしたことないぞ!? なんで嫌な婚約解放されたと思ったら別の嫌な婚約をさせられてしまうんだ!」


 そして私はすぐさまアアアア嬢とキーンの婚約を認めた。それを聞いてアアアア嬢は嬉しそうにキーン王子に抱きつくが、キーン王子は意味が分からず困惑している。


「うふふ。キーン様ったら照れてらっしゃるのね。ずっとメインストーリーで私に愛を囁いてきたじゃないですか。まぁ、私もメインストーリーをスキップばっかしていたので詳しい内容は知らないですけど」

「俺もお前も知らない愛の囁きって、それ存在していないも同然じゃないか!?」


 アアアア嬢とキーン王子はメインストーリー上で愛を積み重ねていた。そして今日、私を断罪して婚約破棄をし二人は真実の愛で結ばれるようになるのだ。まぁ、アアアア嬢はメインストーリーをほとんどスキップして序盤と最終章以外はあらすじくらいしか見ていないようなので、両者ほとんど恋愛した記憶がない状態のようである。


「おめでとう、キーン、アアアアさん。貴方達のおかげでソーシャ令嬢の野望を阻止できました。貴方たちの結婚、認めて差し上げましょう」

「ニンキーナ様、ありがとうございます!」

「母上、なんでこんなトンチキ女との婚約許可しちゃうんですか!? あと、母上もガッツリとソーシャの野望阻止してましたよね!?」


 そしてそばにいたニンキーナ王妃も、二人の結婚を認める発言をする。これで二人は正式に結ばれるだろう。キーン王子は物凄く嫌そうな顔をしている。


「さぁ、皆さん。キーンとアアアアさんの真実の愛を称えてましょう! 結婚おめでとう!」

「おめでとう!」

「おめでとう!」

「おめでとう!」

「おめでとうー!」

「いつの間にか周囲に知らない奴らが沢山祝福しにきてるー!? ここ、来るの大変なはずだろ!?」


 最終章のクライマックスという事で、今までのメインストーリーの登場人物たちが現れ二人を祝福する。『めっちゃ高い塔の上にいる』と言う設定が少しノイズになってる気もするが、感動的なシーンと言えるだろう。


「よかったですわ、世界が終わる前に二人が真実の愛を持って結婚出来て。ちゃんとこの幸せな結末まで来れるか不安でしたが、ギリギリ間に合いましたわね」

「これのどこが幸せだっ! 真実の愛も何も、全然理解できてないぞっ!」


 これで私の目的は達成した。これがキーン王子がたどり着くべきエンディング。なんとなくキーン王子が拒否感強い気もするが、これでゲームの通りキーン王子は結婚でき、幸せな未来を歩めるだろう……。




「……というか、『世界が終わる前に』ってなんだよ。世界崩壊はさっき食い止めただろうが」


 と、キーンが私の言葉におかしな点があると気づいたのか、質問してくる。私はそれに軽い感じで返答した。


「何言ってるんですの、キーン王子。この世界は今日で終了しますのよ」

「……しゅ、しゅうりょう?」




 キーン王子がぽかんとした顔つきになったその時。

 世界が音もなくバラバラと崩壊し始めた。周囲の人間たちは一人ずつ消え去り、キーン王子や私たちも少しずつ透明になっていく。


「ちょ、ま、また世界が壊れだしてるー!? どういう事だ、世界崩壊は食い止められたんじゃないのか!?」

「数か月前から予告されてましたが、実はこの世界は今日で全てのサービスが終了するんですの。なので私が何もしなくとも、私達の物語は今日で途絶えますわ」

「なんだそりゃー!? 食い止めた意味ないじゃねーか! というか誰からの予告だー!?」


 そう。今日はこのソーシャルゲーム『楽園でキスをして』のサービス終了日だったので、この世界も今日で終わるのだ。『楽園でキスをして』は人気を博したゲームではあった物の、予算の使い方が変なところでえぐかった。楽曲に世界のプロ奏者を集めた結果赤字になるわ、恒常ガチャキャラクターが0.00003%しか出ないほど短期間でキャラを作りまくった結果赤字になるわ、バグを発生させまくって改修費で赤字になるわ、なんやかんやでセールスランキング一位を取ったゲームの割に採算が取れてなかったのだ。運営ヘタクソってレベルじゃない。

 それでも数年運営は続いたものの、ボリューム増加による収拾のつかない状態が続いた結果ついにサービス終了が決定したという訳だ。

 今まであまりメインストーリーを進めてこなかったアアアア嬢が今回メインストーリー最終章をやったのも、「最後だから最終章のストーリーだけやるか~」と言う軽いノリがあっただけである。


「お、おいソーシャ。最初の時とかきゃっしゅ削除とやらの時みたく、ちゃんと俺達復元されるよな? そうだよな!?」

「いえ。データは全部消えますのでもう復活もしないと思いますわ。という訳で今度こそお別れです。良かったですわね、私達がキーン王子の目の前から消えるのでキーン王子の望みも叶いますわよ」

「そういう意味で言ったんじゃないっての馬鹿ー!」


 今回は完全に楽キスのサービスが途絶えるため、キャッシュ削除のように再ダウンロードもできなくなるしリセマラもできなくなる。つまりこの世界は今度こそ終わりになるわけだ。


「やだ! やだ! 俺消えたくない! アアアア嬢、何とかしてくれ!」

「あー、楽キス面白かった。じゃ、今日でお別れですねキーン様! ばいば~い!」

「なんで消え去るのにそんな気楽なんだアアアア嬢ー!?」


 アアアア嬢はにっこりと手を振ってお別れをするが、キーン王子はパニックになる。よっぽど消えたくないのだろう。


 あぁ、きっと輝かしい未来が来なくなるのが怖いのねキーン王子。……でも。


「大丈夫。私達は皆の心の中に生き続けますわ。キーン王子の輝かしい未来はまだまだプレイヤー達の心の中で作られるはずです。ですから……消えても心配いりませんよ、キーン王子!」


 私はにっこりと、キーン王子にそう笑いかけた。そう、プレイヤーが私たちを忘れない限り、楽キスの世界は続くのだ。永遠に……。


「んな事で納得できるか~~~~~~っ!」







 こうして、キーン王子のツッコミと共に、『楽園でキスをして』のサービスは終了した。







***


「み、皆さん初めまして! 私は特待生として入ってきたアアアア・アアアアアって言います! これからよろしくお願いします!」


 今日はオモナブタイ貴族学園の入学式の日。とても長い式が終わった後、生徒たちは教室に集まり各々が順番に自己紹介を始める。そんな中、たどたどしくも明るい自己紹介をするピンク色の髪とドレスが特徴的な愛らしい外見の女の子が一人。

 ……彼女の姿を見て、私は気づいた。この世界が乙女向け恋愛ソーシャルゲーム『楽園でキスをして・ツヴァイ』の世界だという事に。


「……って一番最初のシーンに戻ってるんだが!? これはどうなってるんだ!?」


 キーン王子が始まってすぐにツッコミを入れた。その姿は少しリデザインされているが、高貴でかっこいいキーン王子らしさは変わらない。


「どうやらプレイヤーの根強い人気に押されて作られた、世界観そのまま引き継いだ続編の世界に来てしまったみたいですわね。リセットされたとはいえ、まだまだこの世界観で遊ぶことはできそうですわ」


 そう。私達は今度は世界観そのまま引き継いだ続編『楽園でキスをして・ツヴァイ』の世界に来たようだ。ソーシャルゲームはごく稀ではあるものの、運営形態を変更して続編が出されることもある。別のゲーム扱いのため手持ちキャラの育成状況などはリセットされてしまっただろうが、キーン王子も私もアアアア嬢も前の世界とほぼ変わらず存在している。つまりまだまだ私達の戦いは続くという訳だ。


「そうですね! さ、もっともっと周回してもっともっとガチャ引きましょうね、キーン様っ!」

「消えるのは嫌だったけど、無限ループも嫌だ~~~~~~~!! 助けてくれぇ~~~~~!!」






 私たちのソーシャルゲーム的な生活はまだまだ終わらない。

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ソシャゲ令嬢の忙しき日々~ソーシャルゲームの悪役令嬢に転生したけど、ゲーム通りの役割を演じますっ!~ momoyama @momoyama

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