メインストーリーの運命に抗わない(後編)

「着いた……。ここがラストーンの塔最上階、卒業記念パーティ会場……」

「ぜぇ、ぜぇ……こんな高い塔の最上階で卒業記念パーティとかできるわけねぇだろ……てかアアアア嬢なんで息切れてないの……ぜぇ、ぜぇ……」


 アアアア嬢とキーン王子は塔の最上階へと到達した。アアアア嬢は辺りを見回しており、キーン王子は急いで来たせいか息も絶え絶えで今にも倒れそうだ。


 そんな彼らの前に、私は現れる。


「来ましたわね、アアアアさん。キーン王子」

「ソーシャ様……」


 私は今日は黒の露出度が高いドレスを着ている。ラスボスの女性なら黒のドレスを着るのはよくある展開だから、その通りのドレスで決めてきた。


「見なさいアアアアさん、キーン王子。ついに特異点のアーカーシャは次元塔にパラドクスを生みましたわ。そのクリスタルを星杯に注ぐことによって千年の理があれになってなんやかんやで世界を滅ぼすことができるのですわ」

「わけのわからん専門用語ばかりでなんで世界滅ぶのかが分からんのだが。後半に至っては適当になってるし」


 私は天空に浮かぶ特異点のアーカーシャの次元塔のパラドクスのクリスタルの星杯の理を二人に見せた。ソーシャルゲームのみならず、ストーリーもののゲームでは強大な力を持つアイテムによって世界を滅ぼす展開になる事も多い。『楽園でキスをして』でもなんかそれっぽいアイテムである特異点のアーカーシャの次元塔のパラドクスのクリスタルの星杯の理を巡る戦いがメインストーリーで今まで何度も繰り広げられてきた。「乙女向け恋愛ソーシャルゲームって表題なんだから、んなことしてないで恋愛しろよ」というツッコミがありそうだが、楽キスのプレイヤー層は特にそういうツッコミを入れずにこの壮大なストーリーを楽しんでいたようだ。このゲームのプレイヤーは狂ってるのさ。


「この世界は貴方になんか壊させません! その……なんとかかんとかの理なんて、私達が断罪して見せますっ!」

「ふん、生意気な。このなんとかかんとかの理によって、貴方たちも消え去りなさいっ!」

「世界を崩壊させる理の扱いがそんなふわっふわでいいのか?」


 そしてアアアア嬢の叫びと共に、私とアアアア嬢の世界を崩壊させるなんとかかんとかの理を巡る最終決戦は幕を開けた。キーン王子は絶妙にシリアスになり切れてない私たちに対してツッコミを入れた。


 

 最終決戦が幕を開けると同時に、壮大なオーケストラ楽曲が流れ始める。これはこの楽キスを代表するメインテーマ、『私にキスをして』のオーケストラアレンジである『last battle~キスを越えた先に~』だ。


「なんかどっからかオーケストラが聞こえてくるんだが、誰が演奏してるの……? こんな高層階じゃ楽器も持ってこれないだろう……?」

「演奏は楽園でキスをして交響楽団にお願いしていますわ。やはり世界を巡る最終決戦でこういう曲が流れると気分が高揚しますものね」

「世界を巡る最終決戦目の前で繰り広げられてる中で普通に演奏できる交響楽団って何なの?」


 ソーシャルゲームではバトルの際にかっこいい楽曲を流す事は多く、特にラストバトルでは一番壮大な雰囲気を演出するためオーケストラ楽曲を流すことも少なくない。楽キスではなんと世界のプロ奏者を集めた独自の交響楽団を作って演奏させると言う物凄い力の入りようであったのだ。


「それじゃあキーン様、私はソーシャ様をデバフする準備に取り掛かりますので、キーン様は『ソーシャ、貴様との婚約は破棄するっ!』って叫んでください。そうすれば世界崩壊が遠のきます」

「……いや、なぜこのタイミングで婚約破棄を!? そしてなぜ婚約を破棄すると世界崩壊が遠のくんだ!?」

「世界崩壊が遠のいた隙に、『貴様は心優しきアアアアをいじめただろう! 隠しても証拠は揃っているぞ!』って言って持っている証拠を提示するとソーシャ様の防御が崩れるのでそれもお願いしますね」

「証拠提示で何故防御が崩れる!? あとそんな証拠なんて持ってきてないぞ!?」

「とにかくお願いしますね。私はキーン様の婚約破棄発動条件が満たされるまで、ソーシャ様を食い止めます!」


 アアアア嬢はキーン王子と作戦を立て始めた。今回の戦いはキーン王子の婚約破棄がカギを握るため、アアアア嬢がそれを存分に生かす戦法を考えるのは当然だろう。キーン王子は理解できていないようだが。


「おっほっほ。作戦会議は終わりまして? ならば私はまず貴方の教科書を破り捨てますわ。これによって世界崩壊が近づきますっ!」

「何故アアアア嬢の教科書を破り捨てると世界崩壊に!?」


 アアアア嬢達の作戦会議の区切りがついたという事で、私はいつも通り先制いじめを繰り出す。この最終決戦ではアアアア嬢の教科書を破り捨てる事でステージギミックが発動し、世界崩壊が近づくのだ。


「そうはいきません! 私は二体のニンキーナ王妃の必殺技を発動します! 『諦めてはなりませんシールド』、二重張りで対抗しますっ!」

「諦めてはなりません」

「諦めてはなりません」

「母上、なんでここにいるの!? あと普通に二人に分裂してシールド張らないでくださいっ!」


 対するアアアア嬢は、いつも通りダブルニンキーナを呼び寄せて先制シールドを張った。この初手シールドはダブルニンキーナ編成の鉄板行動である。


「ならば私は貴方のドレスを破り捨てますわよっ! これで貴方達のシールドは剥がれ、無力化される!」

「ドレス破り捨てただけでなんで大層なシールドが剥がれる!?」


 だが、ダブルニンキーナ編成をしただけで勝てるほど私との最終決戦は甘くない。私はアアアア嬢のドレスを破り捨てる事で、『諦めてはなりませんシールド』を剥がす事に成功した。


「まだ大丈夫! 私は更に水着ニンキーナ王妃、クリスマスニンキーナ王妃の必殺技でコンボ発動! 【真夏のノエル諦めては諦めてはなりませんなりませんシールド】で再度シールドを発動します!」

「おい、母上が更に増えたぞ!? どんだけ増やせば気が済むんだっ!」


 その弱点についてはアアアア嬢も気づいていたようで、彼女は更に水着ニンキーナ王妃とクリスマスニンキーナ王妃を呼び寄せて、更にシールドを張る。これはクアドラプルニンキーナ編成と呼ばれ、ガチャで何度も別衣装バージョンが登場したニンキーナ王妃だからこそできる戦法である。同一人物が別衣装で四人現れるってのは、なかなかカオスな光景ではあるが。


「残念ですわね! 貴方の手紙を破り捨てることによって私もシールドを張りますわっ!」

「くっ、なんて難度なの! でも諦めないっ! 『ひ、ひどい……なんでそんなひどいことをするんですか!』で行動遅延させることであなたの攻撃をかいくぐりますっ!」

「ならば反撃としてCPゲージを破り捨ててニンキーナ王妃一体を戦闘不能にしますわっ!」

「その行動は予想済みですっ! ニンキーナ王妃には『強いソーシャと対決する時のためのドレス』を着せているのでダメージが軽減されますっ!」

「おほほほ、ですがその装備は『階段属性』の攻撃には無力っ! 空間を破り捨てる事で、階段を生成しますわっ!」

「あ、その演出長そうなんでスキップしてくださーい!」

「分かりましたわ。では時間を破り捨ててスキップを……」


 その後も私が手紙を破り捨ててシールドを張りアアアア嬢が『ひ、ひどい……なんでそんなひどいことをするんですか!』でスタン攻撃を仕掛けようとしたところを私がCPゲージを破り捨てて特待生一体に大ダメージを与えようとするも対象のニンキーナ王妃は強力な装備を装着していたため私はその弱点である『階段属性』をステージに付与する技を演出スキップで発動しうんたらかんたらなんたらかんたら……。






「いい加減にしろぉ~~~~~~!!」






 ハイスピードに繰り広げられる最終決戦だったが、キーン王子のブチ切れ声で制止させられた。キーン王子の顔にはめちゃくちゃ青筋が立っている。


「お前ら、いつもいつもいつもいつも俺の目の前で理解できない行動ばかりとりやがって! 俺をなんだと思ってるんだ!? あとソーシャ、お前さっきから色々破ってばかりなのはなんなんだよ!」

「これも全て愛ゆえの行動ですわ」

「嘘を言うなっ! 本当に俺を愛してるなら、なんで俺の心情を無視しっぱなしなんだよっ!」


 今までもツッコミを繰り返していたキーン王子であったが、今日はついに堪忍袋の緒が切れたようだ。私は愛ゆえの行動だと言い訳したが、キーン王子は全く信じてくれなかった。


 そしてキーン王子は、息を吸い込んで大声で拒否感露わにこう言った。


「もう頭に来た! お前らの婚約も恋愛もくそくらえだっ! さっさと俺の目の前から消えろーーーーーっ!!」





「ぐ、ぐぅっ!」


 その声が響き渡った瞬間、私の周囲から様々な物が消える。階段、シールド、CPゲージ、理。私が積み上げてきた強化効果が全てなかったことになる。


「ぐっ……。ここでキーン王子必殺の『さっさと俺の目の前から消えろ』が発動するとは! 私の作った階段もシールドもCPゲージも理も無くなってしまいましたわ……!」

「いや、なんで俺の叫びでいろんなもんが消えるんだ!?」

「キーン様、流石ですっ! 私の計画通り、婚約破棄に便利な強化解除技を使ってくれたんですね!」

「そんなの使った覚えはないっ! というか、アアアア嬢そんな計画まったく言ってなかったじゃねーか!」


 そう。キーン王子が救済システムであるのは以前にも言ったが、彼が繰り出せる技の中でも『さっさと俺の目の前から消えろ』は他のどの技よりも婚約破棄の際に便利な技であったのだ。その効果はソーシャの強化解除。発動条件は厳しいとはいえ、この技をこのタイミングで発動できるように誘導できるとは、アアアア嬢はここまでで相当なプレイングスキルを身につけたようだ。キーン王子は気づかないうちに誘導されていたようだが。


「じゃあキーン様、あとは私達にお任せを!」


 アアアア嬢はそう言って、ニンキーナ王妃とニンキーナ王妃と水着ニンキーナ王妃とクリスマスニンキーナ王妃と円陣を組む。そして……。


「私とニンキーナ様とニンキーナ様とニンキーナ様とニンキーナ様の超究極合体技! 【キーン様ぁ、私怖いですぅ……ソーシャ様を早く追放してください~ビーーーーーーーーっム】!」


 その五人は、甘ったるい声でキーン王子に甘えながら極太のビームを繰り出す! その全てを破壊しそうな極太ビームは周囲の床や物をバリバリと消し飛ばしながら私めがけて飛んでくる! もはや逃げる事はできないっ!


「ひぎゃああああああああっ!」

「突然母上と一緒にえげつない光線を出すなあああああっ!?」


 私の悲鳴とキーン王子のツッコミが響き渡り……そして戦いの決着はついた。

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