口はわざわいのもと

 ある人に娘があった。

 娘が幼いころ、飼犬に「この娘がおまえの妻だぞ」と冗談で言っていたところ、娘が長じて縁談を持ち込む者が家を訪れるようになると、その犬に追い払われてしまい、だれも縁談を持ち込まなくなってしまった。

 犬の娘への思いは強く、常に娘の側を離れなかった。

 占い師にたずねたところ、「娘への思いが強いので、犬を殺してもむだだろう。約束どおりにするしかない」とのことだったので、両親は泣く泣く娘を犬の嫁にした。

 そんな両親に比べて、犬の嫁にされてしまったのに、娘は悲しいそぶりを見せなかった。

 犬と娘は山で、親の建てた家に住み、犬が狩りを行い、その獲物を娘が売りに行くことで生計を立てた。


 しばらくして、ある山伏が山にて娘を見かけ事情を尋ねた。

 夫が犬であることを知ると、その山伏は娘を自分の妻にしたいと思い、待ち伏せして犬を殺したのち、素知らぬ顔で娘に近づき、夫に収まった。


 それから長い年月が過ぎ、山伏と娘の間には七人も子ができたのだが、山伏がもうよいだろうと犬殺しを口にしたところ、娘は犬を忘れておらず、山伏は殺されてしまった。



参照:「江戸怪談集上」の宿直草『七人の子の中にも女に心ゆるすまじき事』

原文に訳しづらいところが数か所あった。内容はおもしろい。

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