山奥

 夜、山奥で狩りをしていると、母親が自分を呼ぶ声がした。

 老いた母が来られるはずはなく、ばけもののたぐいであろうからと、声のするほうへ矢を射ようと思ったが、その声があまりにも母親に似ていたのでためらった。

 しかし、覚悟を決めて矢を放つと、やはり母の声で絶叫が聞こえた。

 夜が明けてから、何物かがいた場所を調べてみると、地面にてんてんと血がついていた。それをたどりながら山を下って行ったところ、何と母の家へと続いていた。

 そんなまさかと思いつつ、家の中へ入ると、母親は無事であった。

 ほっとしつつも、血の跡を追い続けたところ、母のかわいがっていた猫が血まみれで死んでいた。



参照:高田衛編・校注「江戸怪談集上」の宿直草『ねこまたといふ事』

各地にあるであろう単純な話である。もう少しうまく訳したいところだが。

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