どういうことか

 お勤めのため、某侍が家臣を連れて旅をした時の話。

 村の斡旋である若夫婦の家へ泊まることになったところ、ふたりは侍主従をよくもてなしてくれた。

 夜になると侍は座敷に一人で寝、家臣たちはそのとなりの部屋で身を休めることになった。

 侍主従の数が多かったので、その夜、若夫婦は物置部屋で寝た。

 その物置部屋と座敷は、壁を挟んでとなりあっていた。


 深夜。天井からの大きな音で目を覚ました侍が、何事かと耳をすませていると、亭主のうめき声が聞こえる。

 どうしたと壁越しに尋ねても返事はなく、亭主の声は小さくなるばかりであった。

 侍は家臣たちを起こしながら物置部屋へ向かい、戸を蹴破って中へ入った。

 すると、何ということだろう。女房が亭主のはらわたを食いちぎっているではないか。

 侍が女へ声をかけても返事はなく、自分が何をしているの分かっていない様子で、ひたすら夫のはらわたを口に運んでいた。


 そのうちに亭主は死んでしまい、女をそのままにしておくわけにもいかないので、体を縄で縛り、身動きができないようにしたが、逃げようともせず、悲しんでいるようにもみえず、平然としていた。


 以上の所業は鬼か何かのせいであろうか。女のその後は知れない。



参照:高田衛編・校注「江戸怪談集上」の宿直草『男を食ふ女の事』

鬼がやって来て夫を殺し、女房がおかしくなってしまったとも読み取れるか。

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