夫婦

 あるところにどうしようもない男がおり、自分の家の下女と深い仲になってしまうと、嫉妬ぶかかった妻との間がいやおうなくこじれた。

 その妻のいらだちは日に日に増し、ついには心労から病になり、やがて死の床についてしまった。

 ここに来て男は改心する姿を見せ、妻に謝り心残りを尋ねた。

 すると、妻が自分の死んだ後に後妻を迎えないでくれと言うので、神仏に誓ってかならず守ると男は約束した。


 妻の死後、しばらくは我慢していた男であったが、やがて寂しさに耐えきれなくなると、親類縁者の止めるのも聞かず、下女を嫁に迎えてしまった。

 それからすぐに、先妻の塚が揺れ動くようになり、夜の墓場にだれも近づかなくなった。


 以上の話を村の集まりで聞いた百姓が信じずにいると、それでは賭けようという話になった。

 夜、先妻の塚に竹串を刺して来られれば百姓の勝ちとして、みんなでごちそうをする。

 できなければ逆に百姓がみんなにごちそうをする、という賭けであった。


 いいだろうと百姓はひとりで夜の墓場に出向き、先妻の塚に証拠となる竹串を刺そうとしたが、硬くてどうにもならなかった。

 何度か試しているうちに、人の気配に気づいた百姓が見てみると、白装束の女が立っていた。

 百姓が誰だと尋ねると、その塚で眠っている女だと答える。

 そして、塚に竹串を刺したいのならば、私の願い事を聞いてくれと言うことだった。

「後妻が憎いが、札が家の門に貼ってあるので中に入れず、恨みをはらすことができない。札を剥いでおくれ」

 村人の話が本当であることを知った百姓は、幽霊に同情して願い事を引き受けた。

 すると幽霊が消え、竹串を塚に刺すことができるようになったので、百姓は帰宅した。

 翌日、村人たちが墓場で負けを認めたが、百姓は幽霊との約束を違え、お札を剥がさなかった。


 数日後の夜、百姓の家の門を誰かがたたいた。

 百姓が門を開けると、そこには墓で会った幽霊が立っていた。

「私のおかげで賭けに勝っておきながら、これはどういうことだ。今から札を剥がしに行かなければ、おまえを殺すぞ」

 と鬼の形相で脅されたので、仕方なく百姓はくだんの家へ出向き、門に貼られていたお札を剥がした。

 帰宅後、百姓は何事もなかったかのような振りをして布団に入ったが、まだ起きていた女房が強い口調でどこに行っていたのかを詰問した。

 事が事なので言うわけにはいかないと言葉を濁していると、女房が浮気と勘違いしだしたので、仕方なく百姓は包み欠かさず話してしまった。

 百姓の耳に、くだんの家にて後妻が首を絞められ殺されたという話が飛び込んで来たのは、翌日のことだった。


 それからしばらくの間は良かったのだが、ある日、百姓と女房との間にいさかいが起き、百姓が家を飛び出すと、腹に据えかねた女房が、殺された後妻の実家へ幽霊の話を告げ口してしまった。

 後妻の親が役所に届け出ると、百姓は尋問を受けたのち、しかるべき処罰を受けた。



参照:高田衛編・校注「江戸怪談集上」の宿直草『幽霊の方人の事』

長いので訳す気力がなかった。前半は大幅にカット。短くするため話の筋を変えた。

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