蛇切り

 大蛇を切り殺したために蛇切りと呼ばれている侍の家に「西の湖の蛇を退治してくれ」と張り紙が貼られていた。

 侍が無視したところ、翌日も「ぜひ殺してくれ」と貼られている。

 その後も侍が相手にしないでいると、日々張られる枚数が増えるだけでなく、侍への悪口も書かれるようになっていった。

 侍は仕方がないので、湖に出向く日を紙に記し、門に張った。


 その期日、話を知った人々が見守る中、侍は酒を飽きるまで飲み終えてから、裸になって湖に飛び込んだ。

 しばらくして水面から顔を出した侍が、衆人に尋ねる。

「蛇は見当たらないが、何かあるようだ。だれか、長縄を持っていないか?」

 長縄が差し出されると、侍は再度湖へ潜った。


「引き上げてくれ」

 長縄の端を手に湖から上がってきた侍の指示に従い、みんなで縄を引き上げてみたところ、立派な武具を身につけた武士の遺骸が現れた。



参照:高田衛編・校注「江戸怪談集上」の宿直草『湖に入り、武具を得し事』

江戸末期の人も、コロリ(コレラ)に怯える心を怪談で紛らわしたのだろうか。

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