ゆらい
夜。ある侍の奥方が用を足していると、毛深い手にお尻をなでられた。
しかしそこは侍の妻である。驚く様子を見せずに用を済ませて立ち去った。
奥方が寝所に戻って夫に話すと「それはきつねのたぐいにちがいない」と言う。
それならばと奥方は、小刀を隠し持ってふたたび
するとまた手が出てきたので、奥方が切り落として正体を調べると、それはたぬきの前足であった。
次の夜。裏口の戸が
「昨日はつまらぬことをして、ご迷惑をおかけしました。お怒りは当然ですが、どうかお許しいただいて、わたくしの前足を返していただけませんでしょうか」
とたぬきは謝ったが、侍は許さなかった。
「人をたばかるようなたぬきの手を返すものか。それにたとえ返したところで何かのやくに立つものでもあるまい。命は助けてやるから、早く立ち去れ」
もっともなことを言われても、たぬきはあきらめなかった。
「どうか前足をお返しくださいませ。足さえ戻りましたら、妙薬でつなげることができるのです」
「ならば、その薬の作り方を教えてくれ。そうすれば返してやろう」
以上が狸薬のゆらいである。話のような効果はないが、打撲にそこそこ効く。
参照:高田衛編・校注「江戸怪談集上」の宿直草『たぬき薬の事』
よい話。侍の奥方は怖いね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます