うぶめ

 ある僧が女をはらませた。

 うわさの広まる中で臨月を迎えたところ、ひどい難産となり、母子ともに死んでしまった。


 母子は火葬に付されたのだが、その日の夜から寺のやぶに姿を現し、僧を見ては泣くようになった。

 僧は弔うためにいろいろと手を尽くしたが、一向に効果はなかった。


 話が四方に知れ渡ってしまったので、僧は寺を出ようとしたのだが、それを知人が止めた。

「それだけ弔っても消えぬのならば、きつねやたぬきのしわざかもしれないぞ」

 それならばと、僧は弓の名人を寺に招いた。


 招かれた名人が身を隠して待っていると、夜の深まりとともに、赤子の不気味な泣き声がやぶから漏れてきた。

 名人が隙間から見てみると、白装束の女が竹に取りついて悲しげに泣いているのが見えたので、それに向かって音もたてずに矢を放った。


 手ごたえを感じた名人が灯りを手に竹藪たけやぶへ近づいてみると、倒れていたのはたぬきであった。

 まだ生きていたのでたたき殺した。



参照:高田衛編・校注「江戸怪談集上」の宿直草『古狸を射る事』

原文の複雑な構成をシンプルなものに改めた。登場人物の数も減らした。

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