出稼ぎ

 男は家族を養いきれなかったので、田畑を妻と下男に任せて出稼ぎへ出かけることにした。

 しかし、よい仕事へつけぬままに月日ばかりが過ぎて行った。


 ある日、男がふるさとを懐かしんでいると、愛する妻が突然姿を現した。

「便りもない中、家で心配しているよりも尋ねて行こうと思い、ここまでやってきました」

 妻の言葉を男は喜び、ふたりで暮らすことにした。

 しばらくすると男の子ができた。


 妻が来て三年が過ぎたころ、田畑を任せていた下男が男のもとを訪れた。

「よくここがわかったな。何の便りも寄越さない私に腹が据えかねたか」

 主人の話を聞いて下男は首を振った。

「そうではありません。お伝えしたいことがあり、遠いこの地まであなた様を尋ねて来たのです」

「それはすまなかった。何があったのだ」

「お気を確かに。……奥さまはもうこの世にはおられません」

「妻が?」

「はい。三年前の今日、お亡くなりに……」

 言い終えた下男を、男は不審の眼でながめた。

「ふしぎなことを言うものだ。妻なら三年前にこちらへ来て、いまも一緒に暮らしているぞ。それを死んだとは」

「いえ、確かな話です。火葬もすませました」

 反論する下男に、男は忌々しげに応じた。

「押し問答は不要だ。いま本人に会わせてやる」

 寝室にいるはずの妻へ男が声をかけた。しかし、返事はなかった。

 部屋に入ると妻はおらず、代わりに見知らぬ卒塔婆そとばが横たわっていた。

 それを下男に見せたところ、「これは奥さまの墓に立てたものにまちがいありません」と泣き出した。


 ふたりの間に生まれた子は長じると、優れた能役者となった。



参照:高田衛編・校注「江戸怪談集上」の宿直草『卒塔婆の子うむ事』

話としてはまあまあか。ネタバレがひどいので表題と構成を変えた。

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