板の代わりに

 ある女が人目を避けて男のもとへ通っていた。

 夜に女ひとりで道とは言えぬ所を歩かせるのだから、恋の力は恐ろしい。


 さて、月の出ている夜のことだった。

 女は森へ入って行き、その中を流れている水路を渡ろうとしたのだが、いつも渡るのに使う板切れがなかった。

 足を濡らしたくない女が左右をみると、死体が仰向けに水路へ横たわっていた。

 これは濡れずにすむと喜びながら、女が死体を板切れ代わりに水路を渡ろうとしたところ、死体が女の服の裾を噛んだ。

 女は死体を引き外して男の元へ向かったが、なぜ死体が服の裾に噛みついたのかが気になって、水路へ戻った。

 そして、服の裾を死体の口へ入れたのち、その胸を踏んでみた。

 すると死体が服の裾を噛んだ。

 そういうことかと思いながら女が足を離すと、死体の口が開いた。


 以上の顛末を寝物語に話したせいで、女は男に捨てられてしまった。



参照:高田衛編・校注「江戸怪談集上」の宿直草『女は天性肝ふとき事』

おもしろい話。最初、ゴミ箱という変なタイトルをつけてしまった。

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