大きな何か

 狩りのために犬を連れて山へと出かけたが、何も取れぬままに日が暮れた。

 その夜は雲がなく、星々がよく輝いていた。


 早く帰らなくてはと山頂での休息を切り上げた時のこと。

 前方の谷間から何やら大きなものが現れた。

 形はハッキリしないままであったが、だんだんと背の高くなっていくのを見て、ばけものにちがいないと思った。


 星々の光を頼りに注視していると、ばけものが対面の山よりも高くなったところで、坊主の姿をしているのが見てとれた。

 さてはたぬきの仕業かと弓を構えて坊主の顔をにらみつけたが、その間も背は高くなり、とうとう真上を見あげるほどになってしまった。

 今だと思って矢を放とうとしたが、あまりに大きくてどこを狙えばよいのか迷っているうちに、ばけものは消えてしまった。

 いや、ばけものだけではなく、星の輝きもせていき、あっという間に何も見えなくなった。


 帰るに帰れなくなり困ったあげく、連れていた犬と自分をひもでつなげ、犬が行くのに任せて山を下りた。

 すると歩いているうちに闇の中からが浮かんで見え、ついで夜空の輝きも戻った。

 これ以降、ひとりで山には入っていない。



参照:高田衛編・校注「江戸怪談集上」の宿直草『見越し入道を見る事』

杉浦日向子の「百物語」にもある話。訳しづらかったし、好みの話でなかったし。

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