観音堂のばけもの
観音堂に怪異が現れると聞き、ある侍が周りの反対を押し切って出かけた。
侍は馬を降りて堂へ入る前に、「夜明けに帰る。馬を連れてくるように」と従者たちへ命じた。
日が暮れてしばらくの後、堂内に金棒を手にした二人組みが来て「俗世の方がお堂に入られるのは禁じられています。早く出ていってください」と侍に告げた。
しかし、侍は「どうしても観音様にお願いしたいことがあるのです」などと何度も懇願して動かなかった。
すると二人組みは諦めたのか、その場であとかたもなく消えてしまった。
深夜になると次は僧が五六十人、灯りを手に手にやってきた。
葬式のような厳かな雰囲気の中で「俗人が堂に入るとはどういうことだ。今すぐ出て行け」などと、侍をいろいろと責め罵った。
しかし侍は返事もしなかった。
しばらくすると、僧たちもまた消えてしまった。
ようやく夜明けが近づいたころ、今度は小僧が来て、堂内に灯りをつけた。
それから仏像を拝み始めたところ、小僧の姿が次々と変化していった。
たとえば顔が伸びたり縮んだり、赤くなったり白くなったり。
背を天井まで伸ばしたり、顔をお堂いっぱいに大きくしたり。
しかし侍は小僧をにらみつけるばかりだったので、そのばけものもまたまた消えてしまった。
朝になり、従者のひとりが馬を連れて迎えに来た。
「他の者はどうしたのだ」と侍が口にすると、「もうすぐ来ます。私はあなた様が心配で、失礼ながら馬をお借りして先に来た次第です」と答えた。
馬上の人となった侍に、馬の口を引きながら従者が尋ねた。
「昨夜は何か変わったことはございましたか」
「それだ。あったぞ。ばけものが三度来た。最初の二つはどうということもなかったが、最後の小僧がよくない。平然を装ったが、あれは恐ろしかった」
主人の話に従者が「その顔はこのようでございましたか」と言うので、侍が目を向けたところ、そこに先ほど見た小僧の顔があった。
「お前もばけものか」と侍は腰の刀に手をかけたが、馬がはねて真っ逆さまに落馬した。
その後の顛末だが、気絶している侍を本物の従者たちが見つけ、帰宅させた。
命に別条はなかったが、身を恥じた侍は主君に暇乞いをして行方不明となった。
参照:高田衛編・校注「江戸怪談集上」の宿直草『武州浅草にばけもののある事』
二番目のばけものがいちばん怖い。ところどころよくわからなかった。
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