08-2 パチンコ崩し!
昨日立てた作戦と準備をリュウと確認する。
暴力団員達が来たら、エントランスはわざと通す。エレベーターは諜報員が使えないようにしておくので彼らは階段を上ってくることになる。
そこで、あれこれと施した仕掛けを使って戦力をそぐのだ。最終的には屋上まで誘い込み、そこまで来ることのできた者と直接戦うことになる。
ちなみに、警察にも連絡はしてあって、中川組が入り込んできてからそう時を置かずに応援に来てもらうことになっている。
ただし警官に極めし者はいないらしく、もしも中川組の極めし者、あるいは薬物を使って一時的に闘気を操れるようになった者が最後まで抵抗すると、取り押さえるのは
「おまえは屋上まで行ったら俺のそばから離れるなよ」
「ミナエ姉さんとことは姉ちゃんがやっつけてくれるんだよな」
「そ。鈴木のおっさんは来ないけど、暴力団達は警察とスパイ達が取り押さえてくれるらしいからな」
「おっちゃんは?」
「中川組の本部に直接乗り込むんだってさ」
答えながら世記は昨夜のチャットルームでの鈴木とのやり取りを思い出していた。
シキ:伝えたいことってなんだよ?
くおん:一応緊急連絡用でこちらのチャットルームを開いておきました。動作確認です。
くおん:あなたしかこちらに連絡が取れないような何かがありましたら入室してください。
シキ:そんな状況、終わってるって言わないか?
くおん:確かに(汗)。とにかく、入室者が来たらアラームで報せてくれるように設定しているので。
くおん:あと、明日、私はいないので不測の事態の際はシキ君達の判断に任せます。
シキ:おっさん、どこに行ってるんだよ?
くおん:相手の本部に直接乗り込んできます。
シキ:大丈夫なのかよ?
くおん:こう見えても一応ベテランなので大丈夫です♪
くおん:シキ君も気をつけて。目の前の敵ばかりに目を奪われないように。
シキ:どういう意味?
くおん:何が起こるのか判らないのが、戦いです。
くおん:それではまた明日、解決してから会いましょう。
なんてことはない、チャットルームの動作確認と、気をつけろという警告だ。
だが世記にはなんとなく引っかかるところがある。
実は鈴木が言いたいのはもっと別のことじゃないかと勘ぐってしまう。
それは相手がいつも含みを持たせるような言い方をするスパイだからかもしれない。
「兄ちゃん、そろそろだよ」
リュウの声に世記はうなずいて、意識を目の前に戻す。
世記達は一階と二階の間の踊り場まで降りてきている。目の前にエントランスホールが広がっていて、その先にマンションの入口が見える。
まだ暗い外の更に奥に、何かうごめく気配が見えた。
「来たっ」
「やつらが来たら、おまえ先に上に行けよ」
「わかってる!」
入口の自動ドアが開いた。
なだれ込んでくる、ガラの悪い男達。
二人目が通過する時にドアが閉まっていく。後ろに続く男が慌てて身を引いた。
(これ、操作してるのおっさんの仲間だよな。やるじゃん)
予想外の出だしに世記の顔に笑みが浮かぶ。
「やーい、つかまえてみろー」
リュウが挑発の一声を残して階段を駆け上がる。世記も続いた。
三階まで一気に駆け上がり、後ろに男達がついてきているのかを確認する。
男達が踊り場からこちらへ上り始めるタイミングで、階段の横に置いてあったバケツを階段に傾けた。
ジャアァーっと金属が触れ合う高い音がして、大量のパチンコ玉が階段を転がり落ちる。
銀の雪崩に足を取られた男が滑り落ちた。
「障害物競争第一弾。パチンコ崩し!」
「だいせいこーう!」
世記とリュウはハイタッチをしてから、また階段を駆け上がる。
次は五階だ。
階段に顔をのぞかせると男達はまた何かを転がされるのかと警戒して踊り場に立ち止まった。
世記がバケツを取り出す。
だがこれはひっかけだ。
本当のトラップはリュウがひもを引っ張って作動させていた。
踊り場の上につるしたバケツから、ほどよい水で半液体状になった、いわゆるスライムを敵の頭に落とす。
片栗粉と水を混ぜるだけの簡単仕様で、リュウは昨日喜んで作っていた。
それが今、悪漢の頭にぶちまけられたのだ。
背中に流れればどろりとした感触に気を取られ、顔に流れれば視界を遮る。
慌てる男達に世記は闘気を込めたパチンコ球を投げつける。
たまらず男達はうずくまった。
「ぼーけんしゃたるもの、頭上にも注意しないとスライムにおそわれるのだ」
「こいつら襲撃者だけどな」
戦闘不能になった男達の後ろから新手が現れる。
リュウに先に行けと目配せすると、うなずいて階段を駆け上がっていった。
「あと何人くるんだぁ?」
とりあえず姿を見せた三人に闘気つきパチンコ玉をありったけ投げつけてから世記も上へと走った。
七階まであがるとリュウが待ちわびたといった顔をしていた。
「よーし、流せー」
リュウが階段に向けてバケツをひっくり返す。階段全体に液体が流れて行った。
その間に世記は廊下に準備しておいた物干しざおを手に取る。
洗剤の水に足を滑らせ戸惑う男達に、世記は容赦なく突きを繰り出す。
男の一人が業を煮やしたのか、懐から銃を出してきた。
「うっわ、そんなの出してきて、きったねーぞ」
「それならこっちも飛び道具だ」
暴力団員が引き金を引く。銃声がこだました。
ほぼ同時に世記も闘気を放つ。
炎の塊を模した闘気は銃弾を叩き落とし、勢いを殺すことなく男を吹っ飛ばした。
「兄ちゃん、すげー!」
リュウに褒められて鼻高々だが、相棒に応えることはできなかった。
階下から強めの闘気が近づいているのを感じ取ったのだ。
「リュウ、作戦変更。屋上へ行け」
世記の言葉にリュウも笑顔を引っ込めた。作戦変更という言葉には極めし者が来るという意味が込められているからだ。
リュウの後を追って世記も屋上へ向かう。物干しざおは相手の武器にされてはいけないので持って行く。
屋上へ通じる扉を開けると、明け方の冷え切った空気がかみついてきた。
「運動した後でも、やっぱ寒いわっ!」
思わず叫びながらも世記の目は素早く屋上の状況を見て取った。
「もう来てたのか」
「こっちはそんなに仕掛けをしていたわけじゃないから」
階段で数人戦闘不能にした後は、すぐに屋上に上がってきて戦闘に入り、やっつけたという。
男四人と戦った後のわりに、寿葉も柏葉もあまり疲れてなさそうだ。
これなら残りも軽くやっつけてくれるに違いない。
今頃階段のあたりで動けなくなっている男達は諜報員に拘束されているだろう。その処理が終わったら彼らもこちらに来てくれることになっている。といっても極めし者ではないので戦力としてはあまり期待できないようだが。
「銃声みたいなのが聞こえたけれど」
「うん、撃たれた」
寿葉の問いに世記が状況を説明すると、柏葉が顔をしかめる。
「残りの男も武器を使ってくる可能性が高いですね。あと何人ですか?」
「しっかり見たわけじゃないけど多分三人かな」
柏葉の問いに答えると、二人はうなずいた。
「……来ますね。丹生さんはリュウさんをしっかり守ってください」
「はい。こっちもまだ武器は一つ残してるし一人ぐらい来ても大丈夫かな」
相手のレベルが高くなければという条件はつくが。
闘気の気配と、足音が階段を上がってくる。
世記はリュウを連れ、奥へと下がる。
入口の前、一メートルほどのところで寿葉と柏葉が身構えた。
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