第5話 ボトル
カチ…ガシャン!! カチ…ガシャン!!
ゼェーハァー…ゼェーハァー…
周りから色々な音が聞こえる。
ギアを上げる音。荒い呼吸をしてる音。
あ、立ちこぎで前に出る人がいた。
俺も出なきゃ。前に!!
「うぉぉぉおおおおお!!!」
南雲くんに追いつくんだ!!!
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春の陽気が近づいていた冬のある日。
俺は初のサイクルイベントに参加していた。
サイクルイベントとは言ってもレースではなく、美味しい料理を食べながらゴールを目指す簡単なものだった。
近所でやっていたからというなんとなくの理由で参加した。
ガァー…。
周りには俺のとは違う自転車の様々な音が聞こえる。
程なくして俺は最後のチェックポイントについた。
ちなみにこのサイクルイベントではどこでご飯を食べてもいい。
どこのやつを食べてもいい。
むしろ食べなくてもいい。
俺は途中にあったバナナとカステラを食べた。
どちらも甘くとても美味しかった。
最後のチェックポイントを通過後はサイクリング組とタイムアタック組に分かれる。
時間ごとに発車時間が決められていて、サイクリング組とタイムアタック組は、
別々の道となる。
俺はタイムアタック組の列へと並んだ。
このサイクルイベントはこの先の峠のタイムアタックも並行して行うという、
全国でも珍しいイベントだ。
ちなみに俺はその峠を何度も登っている。
渡部くんとも登った場所だ。
全長20キロのタイムアタック。
全国的には短い。
だがロードレースとは違ってタイムアタックは、
駆け引きじゃない実力勝負だ。
俺と発車するのは二人だった。
俺の前の列が発車準備をしている。
「よろしくお願いします。」
そう両側の人に声をかけた。
「よろしくお願いします!!」
「よろしくっス!!! 高校生っスか??」
二人とも年齢が近いように見える。
「高校生だよー。最近始めたばかりー。」
「そーなんスね!! そんじゃ頑張りましょーっ!!」
彼の足はとても細くロードに乗っているとは思えなかった。
パンッ!
号砲がなった。
俺たち3人は走り出した。
「ちなみに俺は南雲遥希っていうっス!!」
そう言い残して南雲くんは前へとグングン進んでいった。
気付けば俺はもうひとりの人に置いていかれ、ひとりだった。
残り5キロの時点で俺は峠の中腹まできていた。
峠を登り終わり、残りの平坦区間に入った。
前を見るとオレンジ色の物体が転がっていた。
近くで見るとボトルだった。
(南雲遥希)と書いてあった。
南雲くんだ!!
俺がボトルの確認をしていると後ろから別のタイムアタック組が後ろから来た。
この組にはたくさんの人がいた。
埋もれてしまったが前に出ていくしかない。
俺は前に行って落としてあった南雲くんにボトルを届けなきゃならない。
さぁ…いくぞ…!!
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カチ…ガシャン!
残り1キロ…。
もう少しだ。
俺はこのレースで結果を出さなければならない。
インターハイへと出場しなければならない俺にとって、このタイムアタックの優勝は絶対条件だった。
俺は明誠学園の一員だ。
負けは許されない。
とりあずもう少し…。
「あれ、ボトルがない…」
どっかで落としたのか…?
少なくとも残り1キロ…。
ボトルなしで行くしかない!
最初からタイムアタックってことでボトルは一つしか持ってきてなかった。
春の暖かさを感じる太陽が半分隠れた日だった。
「Never ends」 どんぐりころころ @kakuyusei
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