大乱闘! 大江戸北町奉行所二十四時!②~現れしは冥土~
「追え、逃がすな!」
取材班がけったいな服の美女と接触する前夜、既にコトは発生していた。
一人の隠密廻り同心が、疑惑の廻船問屋についての真相を掴んだのである。
同心は即座に奉行へ報告せんとしたが、問屋の主人に見つかってしまった。
「くっ……」
同心はちらりと後方を見る。
人通りの少ない船宿で密談が行われていたため、追いかけてくる人数が多い。
荒くれだけなら撒けなくもない。今もそうしている。だが問題は。
「クックック……飛んで火に入る夏の虫……!」
「むう……!」
用心棒。いわゆる『先生』と呼ばれる、腕の立つ者。目の前にゆらりと現れる。
紋無しの、擦り切れた上下の服。伸び放題の
しかしその出で立ちに隙はない。
間合いは既に一足一刀。
同心は隠密廻りとはいえ、高度な実力を持つわけではない。
命は風前の灯だった。が。
「奉行様がお待ちよ! お行きなさい!」
間合いのど真ん中に割り込む、クナイが三つ!
用心棒は飛び退き、上を睨む!
屋根瓦の上には、奇妙な風体の女が立っていた!
「その服、天の民とやらか!?」
「否、南蛮渡来。少々こちらで整えましたが」
その風体、大坂にいるあの二人ならば「メイドだ!」と声を揃えたであろう。
長いスカートに白の前掛け、髪は後ろに結い上げ、白の大髪留めが頭頂部。
手にはホウキを持ち、堂々と、しかし艷やかにたたずんでいた。
「そうか、うぬは
「知らなくとも良いのです。冥土の存在、冥途の土産にお持ちくださいませ」
スカートをパラシュートじみて駆使し、ふわりと舞い降りるメイド。
否、彼女は冥土と名乗ったか。
用心棒の目前に半身で立ち、穂先を突き出しホウキを構える。
「むむ……こうして相まみえると、やはり」
「冥土とは、そういう者どもにてございます」
「く……この勝負、預ける!」
用心棒は、わずかな対峙で方針を改めた。
両腕を広げ、刀を抜いたままにジリジリと下がると、一息に駆け出した!
「ま……!」
メイドは決して油断していたわけではない。
しかしかすかな呼吸のスキを突かれ、一拍遅れとなってしまった。
ほんの一拍。だが、その一拍が差を生み出すのだ。
「くっ……だが目的は果たした。良しとしよう」
メイドは軽く舌を打つと、軽業のように近場の屋根へと飛び上がった。
冥道の心得の一つには、忍びの技も含まれている。
鎌倉の頃より連なる、冥道の歴史の一側面であった。
音もなく屋根に乗ったメイドは、そのまま何処かへと姿を消し。
そして今、取材班の目前にいた。
「もし、よろしいですか?」
「は、はい」
取材班は、見慣れぬ美女に目を疑った。
それでなくとも奇抜な風体である。
黒の長襦袢に白の前掛け。蘭学の書物で見たものに近い。
髪も島田髷ではないと見えた。
「わたくし、北町奉行・天岸肥前守様の近くにお仕えする者。あなた方は、北町奉行所の日々の働きを喧伝したい、ということでよろしかったですか?」
「ええ。ですが断られて」
「わたくしがお連れいたしましょう」
「はい?」
取材班、今度は耳を疑った。
「ご婦人。危のうございます」
「問題ありません」
慌てての制止に、女は微笑む。
次の瞬間、手に持っていたホウキが取材班の喉元を襲っていた。
「なっ……」
「わたくしは肥前守様、ひいては上様の手に連なる者。心配ご無用」
「つまり」
「これ以上の詮索はご遠慮願います」
「あ、あいわかった」
こうなると取材班も形無しである。
ともかく彼らは、奇妙な形で捕物への同行を許可されたのだった。
***
そして今! 我々はまさに捕物の現場に立っていた!
「廻船問屋播磨屋! 天の民と結託し抜け荷を行っていたこと、すでに明白である! 神妙にお縄に付けい!」
少し遠くから響く声を、我々は必死に帳面へと書き付けていく。
粋な捕物姿を記録したいところではあるが、それは同行者に押さえ付けられていた。
「この角より先は駄目です。安全を保証できなくなります」
「しかし遠すぎて……」
「なりません」
自らを冥土と名乗ったけったいな服装の女性が、我々取材班に氷もかくやの視線を向ける。
これには我々もたじたじの有様。突破はならぬと諦めかけた。その時だった。
「やや! 捕物に追われてみれば、まさか昨日の冥道者に行き会うとは! これもおそらく他生の縁。いざ、勝負!」
おお、なんたること。我々の眼前に現れしは、月代も伸び放題の浪人者!
さては、多勢に無勢と追い込まれた用心棒か。しかし、冥土となにやら因縁が……。
「下がってください」
「っ……」
詮索無用とばかりに、冥土が我々へと視線を投げる。先よりも、更に鋭いものだった。
「されど……」
我々は、苦し紛れの抗弁を起こした。
さもありなん。遠間での取材しか許されず、大きなネタを射止められていないのだ。
この上冥土の戦いを見逃したとあっては、今回の企画はお蔵入りになりかねぬ。そうなれば、我々は冷や飯食いだ。
「ならば、五十歩。五十歩私から下がってください。そうするならば、すべてを賭してわたくしがお護りいたします」
そして、意外な言葉を我々は耳にした。この冥土、我々を護りながら戦うというのだ。
かくなる上は、しかとこの目に納めねばならぬ。きっかり五十歩、我々は距離を取った! そして!
「拙者も舐められたものよ……死ねえ!」
「御掃除……仕る!」
その目前で、謎深き冥土の戦が始まった!
大江戸・ヒーロー・ジャンブル! 南雲麗 @nagumo_rei
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