第九十三話 鎧武者


 ある美術館には鎧武者の霊が出たことがある。


 出た……というのは今はもう出現しないことを意味していた。


 その鎧武者は、館内に展示されている日本刀の前で閉館後ただ佇んでいたのだという。

 展示されているのは織田信長由来の刀だと伝わる重要文化財。ある武家の家系の者が是非にと提供したものだそうだ。


 鎧武者の姿は防犯カメラに残っているが、美術館では口外しないのが暗黙のルールになっていたらしい。



 だが、ある時から鎧武者の姿が映らなくなった。


 防犯カメラで確認すると、鎧武者の隣に着物姿の女性が現れそのまま霧のように消えたのが最期の映像だった……。


 その光景が録画されたのは、新たに譲り受けた短刀が展示された日……恐らく女性の護身に使われていた短刀は、やはり織田家由来の品だったという。



 鎧武者と着物の女性の間には、どんなドラマがあったのか……学芸員達はその二振りの刀の歴史を紐解こうと、史料漁りに励んでいるそうだ……。



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