第九十二話 赤子の手


 中学生の時分、何気なく田舎だった実家付近の森を散策した。



 しばらく歩いていると木の枝から手が生えているのを見付けた。

 見間違いかと確認すれば、それは間違いなく人の手……しかも赤子の手だった。


 指や掌のシワまでハッキリと確認出来、時折ピクリと動くのである。


 気味の悪さより興味が先に立ち、その手に触れようとしたがやはり怖い。そこで木の枝を拾いその手に触れてみることにした……。


 すると、赤子の手は枝を力強く握り締め枝を粉々に握り潰した。


 驚きと恐怖で逃げ帰ろうとしたが、今度は森の木の至るところから赤子の手が生え始めている。

 それらに触れぬよう慎重に回避した甲斐もあり、何とか森を出ることが出来た……。


 安心感から再び森に振り返りると……大量の赤子の手は赤く変色し、手招きをしているではないか。


 それからは、脇目も振らず実家へと逃げ帰った。



 その話は誰にしても信じて貰えなかったが、祖母が神社から御守りを貰ってきてくれたことは今でも忘れない……。


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