第八十話 地中


 時は大正の終わり頃のこと……。



 季節は秋。山菜採りに向かった老人は、地響きを伴う揺れを感じた。地震かと思い樹に寄り掛かるが、どうやら揺れは局所的なものらしい。


 老人が気付いたのは、まるでモグラの様に土を持ち上げながら何かが移動している様子。土の様子から長くうねる生物の様だった。


「何だぁ、ありゃあ……?野霊ノズチか?」


 盛り上がった土から判断するに明らかに巨大な何か……蛇ならば人を一飲みに出来る大きさだが、地中を移動し続けるとは考えづらい。

 うねりは様子を窺う老人の足元を抜けると、地中深くへと潜っていった……。


 足元を通り過ぎるその時、土の隙間から見えたのは妙に弾力性がありそうなテラテラとした皮膚。


 老人は“これはイカン!”と山菜を放り出し、麓にある家まで急いで下山した。


 だが……。


 麓の村は無事。それどころか地中を蠢く音や、モグラの様な土の隆起も見た者はいないという。


 老人は自分が見たものを伝えたが、誰も信じなかった。



 その後、老人は『あれは化け物ミミズだ』と孫に語って聞かせた為、その地方には様々なミミズの伝承が伝わっている……。


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