第五十四話 見廻り


 ある高校の警備員が校舎の戸締まりをしていた際のこと。



 すっかり暗い校舎の中、一室だけ灯りのついた教室があった。

 警備員が中を覗くと、生徒二人に補習授業を行っている教師の姿が……。


「遅くまで大変ですね」


 扉を開け挨拶した警備員。教師は申し訳無さそうに頭を下げる。


「戸締まりの邪魔になってスミマセン。今急いで帰りますので……」

「いえ……私は他の箇所を見回ってからまた来ます。それまでに出て頂ければ」

「わかりました。ありがとうございます」


 警備員は教室の扉を閉め再び巡回を続けようとした。


 その時何気なく見た時計は十時半……流石に生徒が心配になり親への連絡を勧めようとした警備員は、教室の方へと振り返る。


 だが……背後は既に真っ暗。扉を閉めて僅か十歩足らずの距離にも拘わらず、教室には教師も、生徒の姿も既に無かった……。

 扉を開ける音や歩く音さえなく、廊下には隠れる場所もない。他の教室は鍵が掛かっているので隠れることは不可能だ。


 狐に摘ままれた気分の警備員だが、仕事は続けねばならない。不思議に思いながらも巡回を続けようとしたその時……明かりの消えた先程の教室から甲高い女の笑い声が……。


 その後校内巡回で同様のことは起こらなかったものの、どうしても気味悪さが消えない警備員は会社に頼み込み担当場所を変えて貰った。



 警備員が恐怖体験をしたのはその一度のみ。結局、あの出来事は何だったのかは分からない。


 ただ、あの教師と生徒の顔は今でも覚えているという……。


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