第五十三話 襖絵



 夏休み──少女が両親と親類の家に宿泊に向かった際、とある屋敷に立ち寄ることになった。



 その屋敷の持主は由緒正しい武家の家系で、古い武家屋敷を史料館として開放しているとのこと。その話を聞いた母の提言で、観光に立ち寄ることになったのだ。



 武家屋敷は確かに時代を感じさせる見事なものだった。


 少女が特に興味を持ったのは襖。保存状態の良い襖絵は、美術部である少女の興味を駆り立てる。

 そうして屋敷の襖を見て回っていると、部屋の奥に人物の描かれた襖が目に飛び込んできた。


 遠くから見ると一瞬本物の『人』に見えたその絵は、老齢の着物を着た男の立ち姿。


 少女はその技術の高さに感心し間近で見ようと近付いた……。



 その時──襖絵の男は滑るように襖を移動し始める。

 そのままスゥ~ッと襖の端に辿り着くと、襖と壁の隙間に紙のように潜り込んで消えた。


 少女はけたたましい叫び声を上げ両親の元まで走って逃げた後、その手を引き急いで屋敷の外に飛び出した。



 両親は悪い冗談だろうと相手にしなかったが、少女はその夏の間あらゆる襖絵が怖くて仕方無かったという……。


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