第五十二話 狐の嫁入り


 昭和も半ばを過ぎた頃……まだ猟師が仕事として成り立った時代の話。



 ある猟師が山深くまで獲物を追った。しかし、何故かその日は一匹も狩ることが出来ない。

 夢中になり山奥で気付いた時には既に夕刻……家に戻る頃には真っ暗になる為危険と判断した猟師は、程近い山小屋で夜を明かすことにした。


 夜中にふと目が覚めて用を足しに山小屋から出ると、視線の遥か先に火が灯っている。


 場所は向かいの山……火は行列を作り移動していた。


 修験者か何かかと気になった猟師は、危険を理解しながらも興味に負け鉄砲を片手にその灯りを目指した。


 修験者の中には人道を外れた者も居る。猟師は、辿り着いた先で灯りを見付けると慎重に様子を伺うことにした……。


 だが………。


 そこにいたのは花嫁行列……皆、着物に身を包み山道を登って行くのだ。


 しかし、猟師は直ぐに違和感に気が付いた。何故なら花嫁の顔が狐だったのだ。

 参列者は全員狐。灯火は宙に浮いた狐火……猟師は思わず口を塞ぎ気配を隠す。


 昭和とはいえ山の闇は暗く深い……。物ノ怪の類いに出会したと覚悟し銃を構えた猟師。


 しかし、物ノ怪とはいえ花嫁の祝いの場……それを壊すことを躊躇った猟師は、行列が過ぎた後山小屋まで引き返し夜を過ごすことにした。



 更に時代が流れた現代でも、時折山にポツリと行列の火が灯る。今ではすっかり老いた猟師は、それを見る度あの花嫁行列を思い出す……。



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