第十九話 黒いスーツの男


 病院の防犯カメラには稀に奇妙なものが映り込む。



 入院患者の傍らに立つ黒いスーツ姿の男。防犯カメラを通してしか見えないその男が患者を支えるように常に寄り添うと、病院は患者の身内に様態急変の連絡を始めるのだそうだ。


 不思議なことに、その患者達は一切の身辺整理を終えた状態で亡くなると言われている。


 とある患者は、自らの死ぬ日を家族に伝え葬儀の日取りまで遺書に残していたという。


 ただ、その黒スーツの男が居るからといって必ずしも誰かが亡くなる訳ではない。何故なら、男は常に防犯カメラに映っているから……。


 病院が入院患者に連絡するのは、飽くまで黒スーツの男が寄り添った時のみ。それがその病院の暗黙のルールだと看護師は声を潜めた。

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