第十五話 狸



 昭和の初期……まだ今より夜の闇が深い時代。世界大戦からの復興が終わろうかという頃、地方では食糧難を避ける為様々な方法を取っていた。


 勿論、子供もそれを率先して手伝っていた。自分達もひもじさを避ける為だ。



 ある月の晩、四人の兄弟は河に向かい魚を獲ることにした。

 河の端を石で囲み塞き止める。更に水を抜き干上がらせるのだ。これで水に入らずして魚は大量に獲ることが出来る。


 今では違法なそんな漁も当時は生きる為の知恵。奮闘の甲斐あって、子供達は魚籠一杯に魚を獲ることが出来そうだった。



 そんな漁の途中、突然空にもう一つの月が昇る。兄弟達が奇妙さに気を取られていると、一番下の弟が足元を駆け回る気配に気付いた。


 それは狸……しかもかなりの数の狸が干上がった河を駆け回り魚を食らっていた。


 慌てた弟は兄に声を掛けるが、二番目の兄は酔った様にフラフラと河の中に向かい足を滑らせてしまう。

 気付いた兄弟達は溺れないよう慌てて救いに向かった……。



 だが、そこは浅瀬……二番目の兄はまるで夢を見ているようにバシャッバシャッと水を叩いていたのだ。ようやく兄弟が正気に戻り干潟に戻った時、魚はあらかた狸に食い荒らされてしまった後だった……。



 結局、魚籠半分程で戻った兄弟達。だが、その話を聞いた母親は笑ってこう言い聞かせた。


「狸も食うに困る時代だからね。子育てに必死なんだ。だから、恨んじゃいけないよ?」


 兄弟達は狸が本当に人を化かすことを身を以て学んだ、というお話……。


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