第八話 影


 その日は記録的な暑さを更新した日だった……。



 中学生のKはうだるような暑さにうんざりしながら夏期講習に向かう途中、ある神社の脇道を抜けようとした。


 そこは長く細い裏路地……セミも鳴かない程の暑さ盛りの時間帯故か、人の姿は見当たらない。

 ジリジリ照り返す暑さに朦朧としながら路地を歩いたKは、視線の先に揺らめく存在に気付く。


 良く良くみれば何か人の影の様なものがユラユラと揺れているのだ。


 そこで、Kはある違和感に気付く。影は歩いている自分との距離が変わらないのだ。動いても止まっても距離を保ちつつ影も移動していたのである。

 更に……どれだけ歩いても影は消えることなく、まるで蜃気楼の様だった。


 そこでふと背後に振り替えれば、前の影と同じ距離にやはり人型の影が見える。


 前を見ても後ろを見ても……そして移動しても、影は距離を保ちユラユラと揺れていたのだ。


 Kは急に怖くなって脇道に逸れ走って逃げた……。



 Kが後に祖父から聞いた話では、その裏路地では昔神隠しが良く起こったらしい。夏の暑い日に同じ様なものを見た者は多く、皆この道を逸れるようになったのだとか……。



 現代的な解釈では、影は夏にしか現れてない為『逃げ水』のような蜃気楼の可能性が高いのだろう。


 そんな路地近くに住んでいた若い女性が先日、行方不明になったというが……関連性は分からない。

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