その後の俺達は……。

「おはよう……」


「おはよう。巧、すごい顔だな……大丈夫か?」


「そんなに酷いか?」


「あぁ、イケメンが台無しだな。また店に行ったんだろ。程々にしろ、身がもたないぞ」


「……俺が諦めたら、アイツが手に入らなくなる」


「あぁ……あの巧がこうなるなんて、予想もしなかったな」


「だな」



俺は週一で店に通っている。


アイツの父親に気に入ってもらう為だ。


行くと必ず晩酌に付き合わされ……いやお付き合いさせてもらう。


でも、アイツとは付き合っていない。


未だに告白が出来ていないからだ。


俺がこんなにヘタレだったとは、我ながら情けない……。



「今の巧、男前だな」


「自分で言うのは嫌みになるが、花岡の言う通りだと思う。昔の俺は、ただ少しだけ顔立ちが良かっただけの嫌な奴だったしな」



女には興味をもたないし、勇気を出してしてきた告白も、酷い言葉を浴びせて即排除。


そんな事をしても心が全く傷まなかったのだから、自分でもあり得ない行動だと呆れてしまう。



「これも姫に出会ったお陰だ。やっと、男になれた」


「今度は、アイツの特別な男になってやる」


「おぉ、今度は熱い男になった」


「お前、楽しんでるだろ」


「あ、バレた?」



花岡とのこのやり取りも、今では楽しく思える。


まぁ、たまにいじられ過ぎて腹が立つこともあるが。



恋をすると世界が変わるというのは、本当だったんだな。


今までの俺に、この素晴らしい世界を早く見せてやりたい。



***



「あの木村さん、私……貴方の事が好きです!付き合ってもらえませんか?」



アイツにどうしても会いたくなり、仕事を終わらせて退出しようと玄関へ急いだ。


しかしそういう時に限って、こんな事になってしまう。


神のいたずらか、それともただの偶然か。


どちらにしても、長居をしている場合ではないと思い、問題を起こさず目の前の障害を帰す作戦に出た。



「ごめん。俺、大切な人がいるから。だから、君とは付き合えない」


「え……、でも今はフリーだって聞きました。じゃ、その人の次の二番目でも良いです」


「ごめん、それは無理だ。俺は彼女が大切だし、他は考えられない。それに、君は自分を大切にした方がいい」


「でも……、私は木村さんじゃなければダメなんです!」



この一言により、俺の悪の部分を必死に止めていた心優しい天使の俺が弾き飛ばされ、氷の悪魔が勢いを増して飛び出してしまった。



「でもじゃない。二番目って何だよ、俺は大切にしている彼女以外は女だと思っていない。お前はどんなに好きな奴がいたとしても、一生二番目で満足できるのか?俺は無理だな」


「……うっ」



「はいはい、ここまでで君は帰った方が良いよ。まぁ、ここにいてもいいけど……もっときっつい爆弾が落ちても知らないよ」


「……し、失礼しました」



花岡の一言で、顔をひきつらせてそそくさと帰っていった。


はぁ、やっと終わった。


花岡が来なかったらどうなっていたことか。


間違いなく泣かせた後、噂の的になるんだろうな。


そうなったら、アイツがどう思うか……。



「花岡……」


「いやぁ、もう少し見ていようと思ったんだけど、さすがに泣かせちゃったら可哀想かなって」


「助かったよ」


「フフフ。じゃ、俺も一緒に行っても怒らないよね?」


「何処にだ?」


「……言わなくても知ってるクセに」



せっかく感謝の気持ちを持ったのに、花岡がニヤリと笑ったのを見てそれを空へと放り投げた。


どうせついてきても、俺の反応や行動を見て楽しみたいだけだろ。


でもな、さっきの恩もあるし……。



「おとなしくしているなら」


「やった。そうと決まったら、早く行くぞぉ!」



何故そんなにテンションが上がっているのか、花岡の行動が不思議だった。


俺はそんな花岡より、アイツの顔が見られることの嬉しさで余計な事を考えるのは止めていた。


そしてようやく店に着いた時、すぐに店内へは入らず、ガラス越しにアイツの姿をしばらく眺めていた。



「巧、ここで何しているんだ?早く中に入ればいいのに」


「あぁ、片思いってこんな感じなんだろうなって。少し間違えれば、ただのストーカーになっていたかも」


「確かに。でも俺が思うに……今のお前は、好きな女の子に近寄るのも戸惑う小学生みたいだけど」


「……小学生か、それは見た目だけな。俺、腹の中では狼全開だからな」


「フフッ、安心したよ。ちゃんと男の子だ」


「知らなかったのか?」


「ノーコメントで。じゃ、俺は先に入るぞ」


「お、おい待てよ!」



こうして俺は徐々に彼女へ近づいていく。


店に何度も通う俺を、ウザいと思わないだろうか?


それでもアイツに拒否されない限り、これを続けようと思う。


早く「好きだ」というこの気持ち伝えられるよう頑張らなくては。


そして、いつか彼女の両親に二人の仲を認めてもらう。



「ねぇ、そろそろ綾の結婚話でも出るのかしら?」


「さぁね。俺はあの兄ちゃんなら構わないが……」


「ちょっと二人だけで盛り上がらないでよ!私達、まだ付き合ってもいないのに」



厨房の中でそんな会話がされていたなんて、青春真っ盛りの俺には想像すら出来なかった。


それは後々知ることになる……。





終わり。

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俺に近付く女がウザすぎるのに。 碧木 蓮 @ren-aoki

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