第3話
「何処へも行かないよね」
「行かないよ」
僕が彼を引き止めていた。いつも、いつも、最初の出会いの時から。彼はいつだって、行きたかったのに。
「だって、君がいるから」
「ごめんね」
最後にそう呟くと、彼はくるりと背を向けて、駆け出していった。舞い落ちる桜の花びらの中へ吸い込まれるかのように、その姿は見えなくなった。
「待っ・・・!」
言おうとした言葉は途中で途切れた。
謝らなきゃいけないのは、僕の方なのに・・・。僕は悲しくて、とても悲しくて、泣きながら目を覚ました。
そうして、彼はいなくなった。この世界の何処にも・・・。
あれから季節は幾度も巡り来て・・・今年の春、僕らの想いでの桜の樹は、いつもよりずっと美しく、盛大に花開かせた。風に舞い落ちた花びらは、小さな少年の姿を簡単に覆い尽くす。
「ねえ、すごいよ。ほら、見て!」
笑いながら通り過ぎていく見知らぬ少年。僕の手元には小さな飛行機。
この桜の呼び声に、君は連れていかれてしまったんだね。だけど僕は・・・ずっと一緒に、生きていきたかったんだ。
頭上には爽やかな青空が広がる。僕は飛行機を思いきり高く飛ばした。彼は行きたかった所へ行けただろうか。その空の、ずっとずっと遠いところへ。
桜の樹は連れていってくれただろうか。そうだといいなと、僕は思った。
おしまい。
桜の樹の呼ぶ声 ある☆ふぁるど @ryuetto23
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