21.「できれば仲良くなってほしいがな」

 映し出される3Dヴィジョンを見ながら彼は目を見張った。


「コルネル中佐? 本名?」

「いや。それは私が適当につけた」

「ふうん。それにしても悪趣味な程真っ赤だね」


 キムは感心するようにうなづいてみせる。


「それは奴の望みだったからな。身体を生まれ変わらせる時に奴はその色を私に要求した」

「生まれ変わらせる?」

「奴の身体は脳以外はリアルタイプのメカニクルだ」


 サイボーグという奴か、と彼は納得した。


「惑星クリムソン・レーキに私が出向いたことがあるのをキム、お前は覚えているか?」

「うん。確かMの表の用事だって言っていたね。でも確かその時、あの惑星はクーデターが起きて」

「私が来るからということでそのクーデターは急遽取りやめとなったようだ。だがその取りやめのために一人スケープゴートを出さざるを得なかった」

「常套手段だね」

「そうだ。だがそのスケープゴートはなかなかと優秀な軍人だった。奴は自分は拘束されている場所から脱け出すことができたが何故か銃殺の広場に舞い戻ってきた。何故だと思う?」

「何故?」

「奴には部下が居た。奴だけでなく奴の部下までもがスケープゴートにされたのだ」

「ありがちなことだね」


 3Dヴィジョンの中に浮くその「真っ赤な」男を改めて彼はまじまじと見る。


「それでそのスケープゴートさんはどうしたの?」

「部下を助け出そうと一人でその場を襲撃した」

「無謀だね」

「無謀だ」


 ふとその瞬間、彼は盟主の口振りの中に、笑みを見付けたような気がした。そして同時に、微かに自分の中に苛立ちも見つかる。


「それでどうしたの?」

「無論その場では多勢に無勢。勝てる訳がない。本当の首謀者である奴の上司に火炎放射器で全身を焼かれた。そしてそのまま遺体は処分される筈だった」

「だけど?」

「だがその『遺体』はなかなかしぶとかった。捨てられる寸前まで何かを叫んでいる。無論それは無意識だ。だが私の中に突き刺さる程の意志だった」

「それでMは彼を引きとったの?」


 自分と同じように。


「とりあえずは確認を取った。生きたいか、と。その時点では奴は遺体と同じだった。私のテレパシイが通じたのが奇跡なくらいのな」

「でも通じた」


 そうだ、と盟主はうなづいた。


「あれは強烈に生きることを要求してきたよ。何をしてでも生きたいと私に答えた。私がこの組織の盟主であり、その銃になるならと訊ねても迷いはなかった。優秀な軍人だった筈の男がな」

「そういうものなのかな」

「人間だからな」


 キムは軽く肩をすくめた。


「……それで、こういう外見になった訳? ……赤は……」


 血の色だろうか? 火の色だろうか? 

 いずれにせよ、それは自分が何故その姿なのかを思い出させる色であるだろう。

 言いよどむ彼に、盟主は何だ? と問いかけた。彼は何でもない、と答える。


「彼と今回組むのはいいけど、俺はどうすればいい? Mは、俺が彼とどうしていてほしい?」

「できれば仲良くなってほしいがな」


 は? と彼はなかなかその時耳を疑った。


「冗談でしょ」


 だがそれに返答はなかった。



 そしてサルペトリエールの軍警に潜り込み、やや派手な方法で初対面としてみたのだが。

 確かにタフだ、と彼は思った。

 それは手合わせの時もそう思った。あれ以上同じ状態が延々と続いていたら、形式的にもギブアップしてみせなくては、自分が困るところだった。

 そしてそうでない部分においても、冗談じゃない、と彼は思った。あれに毎度つき合っていたら、確かに身体が保たない。

 だが出会った印象は悪くはなかった。

 確かに盟主が銃とするだけのことはあると思った。少なくとも、あの立ち合いの時の腕は、その身体の持つ力に頼ったものではなかった。

 昼だけでない。夜にしても、確かに自分は疲れ果ててしまうのだが、決して自分の嫌がることはしてこないのだ。

 嫌がる「素振り」のものに関しては、中佐は実に楽しそうにするのだ。

 こちらの嫌がる顔を見るのが楽しいのだろう、と何となく悔しくもなるが、まあそれは大した問題ではない。

 だが、本当に嫌なことに関しては決してしないのだ。

 彼は何気なく帽子に手をやる。切ったことのない長い髪。かき上げられるのは好きではない。

 一度嫌がったら、何故かそれに関しては二度目はなかった。


 ……だけど。


 何かが、自分の中でひっかかっていることに、キムは気付く。だがどうして引っかかっているのか、彼には判らなかった。


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