精神保健福祉士の陸は、障害者のための就労支援事業所であるワークセンターわかばに勤務しています。あるときそこへ通っている花岡信子さん、通称「花やん」が緊急搬送され、肺がんを患っていることを知らされます。陸は花やんのペースに巻き込まれるようにして彼女の最期の時間までを見届けることになるのですが……。
御年八十歳に手が届こうという「花やん」こと信子さんの人間像が、この作品の一番の魅力です。大きな病を抱えているにも関わらず好奇心旺盛で前向き、負けず嫌い。大人しいおばあちゃんではなく自分を貫く頑固さ。それに加えてちゃっかりとしてお茶目な性格は、陸でなくてもついペースに乗せられてしまいそうです。
あえてひらがなで記された外来語。緩やかで可笑しみがあって、かつ穏やかな響きを持つ関西弁のイントネーション。そのユーモアと優しさのある表記にも、信子さんや陸、そして他の登場人物の人柄が滲みます。
たった五話の中に、信子さんという女性の人生がぎゅっと詰まっており、それを間近で感じ、人生の師匠として彼女を敬う陸の気持ちが、読み手にもそのまま伝わります。信子さんが自分への課題としてやり続けた漢字ドリル。その最後のページに記された言葉にはきっと涙することでしょう。
生きることのお手本を見せてくれる存在に出会えるのは稀有なことだと思います。花やんに出会えた陸は、まさに人生の師匠を得た、幸せな人だったのでしょう。
笑いと優しい涙をもたらす素晴らしい作品です。