健康食品の罠

 皆さんはどのくらい意識して健康食品を買っていますか。多くの人は「どうせジュースを飲むなら健康にいいものがいいや」とか「痩せたいからこの健康食品を買おう」とか、その目的は人によっては違うかもしれませんが基本的に何らかの理由を持って購入しているんじゃないかと思います。しかしこの時、この食品を食べることで何㎏痩せたいかどうかなど、具体的にどのくらいの効果が欲しいか、そしてその商品にはどのくらいの効果があるのか真剣に考えた上で買っている人は少ないんじゃないかと思います。むしろ、お菓子やジュースを飲むための言い訳にしていたり、摂りすぎた脂質や不摂生な生活のカウンターウェイトのように使っている人すらいるのではないでしょうか。今回はそんな健康食品の実態と健康食品にまつわる科学について書いていきます。


 まずは健康食品とはどんなものかという点についてです。まとめて健康食品といわれることも多いですが、これらのうち国が定めた制度に満たしたものは保健機能食品と呼ばれ、さらに特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品の3つに細分化されます。そして、この保健機能食品にのみ「おなかの調子を整える」といった機能を表示することが許されています(栄養機能食品は商品の機能ではなく成分の機能のみ表示可能:カルシウムが含まれていて、カルシウムは)。

 しかし、数多く存在する保健機能食品の全てが国で検査されているわけではありません。中には企業が根拠を提示し、国はその情報を開示するだけといったものがあります。それが機能性表示食品です。国の方針としては我々自身がその情報を見て判断せよとのことで実際に、消費者庁のウェブサイトで確認することができます(機能性表示食品に関する情報:https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/about_foods_with_function_claims/)。根拠の提示に関しても、企業責任なので資料の形式さえ整っていれば問題ないようです。消費者庁の資料でも企業責任であることを強調してあるので何かあっても国が責任を取ることはないでしょう。

 一方で、特定保健用食品は国の審査が必要です。そのため、一応は商品に効能があると記載することを国が認めています。しかし、その効果は本当にあなたが期待しているものと同一かどうかわかりません。実際にトクホとして認められた商品にも、証拠論文から意図的に隠された内容が存在するようです。例えば、脂肪の吸収を抑えるトクホのジュースは比較対象のジュースを飲んだ際と比べ脂質摂取量の100分の1にも満たない差しかなく、本当に実用的な差なのかどうか疑わしくなります。他にもトクホの商品とそうでない商品の間に差はあったものの、実験の前後でむしろ体重が増えているなんてデータも存在するようです。

 国に認められたトクホですら、あなたが期待するような効果は得られないかもしれないのに機能性表示食品にどれほどの信頼性があるのでしょうか。それを確認するには、実際にウェブサイトで確認するほかありません。しかしウェブサイトで届け出を見ただけではわからないとこも多く、詳しく調べるには届け出に記載された参考文献まで読む必要があります。理系じゃない人にとってはとんでもなく面倒くさいことでしょう。


 この時大切なのはウェブサイトを確認することはではなく、これらの商品への妄信を捨てて疑問を持つことです。科学の知識があれば理解できることもありますが、なくても判断は可能です。実際これらの商品は論点をずらして、あえてメリットだけを誇張する叙述トリックが用いられています。そう考えると文系の人にもとっつきやすく感じられませんか。

 そもそもこれらは保健機能食品と銘打っていますが、結局のところただの食品で薬ではありません。中にはお菓子やジュースといったものもあり、それらが抱える本来のデメリットがなくなった訳ではありません。保健機能食品は健康に機能する成分が含まれていることと、その成分が機能するかどうかにのみ焦点をあてています。お菓子を食べることで発生する生活習慣病や虫歯、その他添加物によるリスクについては普通の食品と同様です。「健康」とついているから全てにおいて安心なように錯覚させているだけなのです。そして、その特定の機能に関しても薬のように劇的に効果があることを保証しているわけではないし、逆に副作用を書く必要はありません。その一方で、食品なのに用法・用量が書いてあるものまであったりして、副作用の存在をほのめかしているかのようで少し怖いですよね。これ以上食べたら責任取れませんよ、自己責任ですよみたいな。

 さらには機能性表示食品には、商品で検証を行っていないものが多く存在します。要は血圧を下げる成分があったから、その成分入れたこの商品も血圧が下がるといった商品です。なので、効果量が実用的かどうか議論する以前に本当に効果があるのかすら不明です。これらの判別方法は簡単で商品のどこかに書いてある届け出表示に、「○○という機能があることが報告されています」と記載されています。製品を用いた臨床試験を根拠に用いていた場合、「機能がある」と断定できますが機能成分に関する文献のみを根拠にしていた場合「報告されています」のような表記しか許されていません。ただ最近の商品では商品の副題で「○○する」と断定しているのに、背面の記載をよく見ると報告されていますとしか書かれていないものも存在するので注意が必要です。


 ここまで健康食品について話を進めてきましたが、私自身はそこまで健康に気を使っているわけではありません。普段から健康食品に興味を持ってしっかり調べているわけではないですし、お菓子が食べたいときにどの程度効果があるのか気になって健康食品を買うこともあります。私がここまで興味を持って健康食品について調べたのも教師になろうとしていた時に話のネタにするためでした。私の場合、最初に気になったきっかけは「報告されています」の表記でした。

 企業が自身の手で研究し、その成果に絶対的な自信があるならば「効果がある」と断定しているはずで、何かあった場合その報告に責任を投げるかのような表現が私は気になりました。科学を勉強する利点はこういったことにあると思います。結果からわかることと、考えられることの違いについて考える機会が多かったので、本当にそんなことまで言えるのかという誇張表現や、本来目を向けるべき違和感への洞察力を磨けました。学校での理科の勉強でも、自由研究や実験レポート、そしてセンター試験の問題など結果から何がわかるのか考える機会はあります。私は社会には健康食品のような罠があるから結果を考察する機会は大事にしてもらいたいと、そう前置いた上で授業を行おうと考えていました。しかし、思ったより健康食品の闇は深いようで調べてみて驚くことだらけでした。そういった意味で健康食品は面白い題材だと思います。

 身近なものほど気になりやすいわけですし、こんな小話でも知的探求心の向上につながればなと思います。

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教師への失望と私の科学 表之裏 @reobverse

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