私の科学

対照実験と二つの科学

2020年2月4日

19:43


 皆さんは対照実験という言葉をご存じですか。学校で最初に出てくるのは、小学生の発芽の実験でしょうか。バーミキュライトと呼ばれる栄養素の入っていない土と肥料入りの土で生育させたり、明所と暗所で生育させたりといった実験を行った記憶があります。

 具体的にどんな実験かというと、調べたい条件(発芽の実験だと発芽に栄養が必要かどうかや、光が必要かどうかなど)のみを変えたサンプルAとBを用意して、それ以外の条件は変えずに実験を行うといったものです。そうすることで初めて条件Aと条件Bを比較することができるのですが、実はこの手法が多くの研究に関わっています。

 しかし、それ以外の条件を変えずというのは非常に難しいことで研究者はここに多くの時間をかけることになります。それは何故でしょうか。答えは生物を扱っていることにあります。生物なので当然個体差はあります。オスメスの違いだけでなく体の大きさや、体質など様々ですが、その違いだけでも厳密な意味での対照実験は成り立たなくなります。とはいえ完全に条件を揃えることは不可能で誤差が出るためデータをたくさんとってその差を標準化し、少しでも実験の精度を上げるようとしています。

 では、人間はどうでしょうか。実験に使われる生物は個体差だけでなく、育てられる環境も揃えておく必要があります。しかし人間の場合、個体差だけでなく、食べてきたもの、受けてきた教育がまるで違います。その時点でサンプルとしての信頼度は下がるわけです。例えば、A君にジュースを1ヵ月飲んでもらって、B君には痩せるかもしれない成分の入ったジュースを1ヵ月飲んでもらって生活します。この間に全く同じ食事で、同じライフサイクルの生活を送ってもらいB君の方が痩せたとします。でも、B君がそもそも痩せやすい体質だった可能性は捨てきれませんよね。まずはこのことを念頭においてください。


 科学の世界においては再現性という言葉が重要視されています。STAP細胞の事件がわかりやすい例で、注目度が高い分野では再現性がなければあのように残酷な結末が待っているわけです。そのため科学者は実験を行った際の環境を少しでも書き残そうとします。そして、先ほどのジュースの例のような突かれかねない穴を埋めて自身の研究を進めていきます。それを怠ればはSTAP細胞と同じに結末なってしまいます。

 私たちが理科で習う内容は多くの科学者によって再現・立証され、私達自身の手でも簡単に再現できるものです。しかし現代の科学では、特に市場に存在する科学には再現性や信頼性が全くといってないものが無数に存在します。「○○に99.99%の効果が!!」のようなキャッチフレーズの商品は、背面の記載を見てみると何か別の条件が指定されていることがほとんどです。

 つまるところ、科学に絶対はないということです。それは教科書の内容すら例外ではありません。学校の授業で習うときにはあくまで絶対であるかのような科学の内容ですが、10年後には全くと違うことが書いてあるかもしれません。実際、冥王星は惑星から外されました。

 科学の歴史を見ても同じことが学び取れるはずです。過去には天動説が信じられていましたが、コペルニクスがそこに疑問を持ち地動説を唱えました。そして、現在では地動説が信じられています。他にも多くの科学者が常識に疑問を持ち、そのたびに社会の認識が変わっています。

 科学は「絶対」のものではなく、常に「疑問」の中にあるものです。それは現在でも変わらず、10年後にはSTAP細胞が存在するかもしれません。


 科学と共に生きるには信じるのではなく疑うことが大切です。汚く言えば、粗探しをすることが科学です。私が疑った直近のものとしては、コロナウイルスに関してです(2020年2月現在)。私の母親は情報に踊らされてしまうタイプのようで、何度言っても治らないのですが、今回も持ち歩くタイプの除菌剤が届きました。蚊取り線香のように持っていれば除菌できるかのような製品でした。しかし、背面には閉鎖空間で商品に含まれている成分の1つが殺菌効果を示したと書いてあるだけなんですよね。ポケットに入れて持ち歩くのに閉鎖空間でしか効果を確認していないのかとか、他にも成分が入っているけど効果があるのかとか、殺菌できるにはどれくらい濃度が必要でこの製品は開けた場所で歩き回る人を保護するには十分なのかとか疑問がいくつもわいてくるわけです。(まあ、そもそもコロナウイルスに効果があるかどうか不明ですし、この閉鎖空間は恐らく試験管のことでしょう)

 しかし、こうして商品を買うのは自己責任で、メーカーもこれだけしか確認してないよと一応明記しているわけです。なので、自分自身で判断をするしかないのですがその時に対照実験の話を思い出してください。全てに当てはまるわけではないですが、信頼できるかどうかの判断基準になることもあります。

 商品の効能だけでなく、その条件にも目を向けてみると驚愕の事実が転がっています。ちゃんと条件は一つに絞り込めていますか。そして、その条件は実用時のものと一緒ですか。ひどいものだと、検証結果から飛躍した論理かもしれません。ある成分に効果があっても、その成分が入った商品に効果があるとは限らないですからね。

 そういった意味で対照実験に限らずあらゆる実験・検証において、結果から言えることはなにかに注目することも大切ですね(これはいずれ「考察」について書く機会があれば詳しく述べるつもりです)。


 とはいっても、科学を利用した商品の全てに効果がないかどうかはわかりません。中には本当に効果があるものもあるでしょう。何を考え何を選ぶにしても最終的には自己責任ですし、私自身今でも買った後に後悔することだらけです。しかし絶対ではないという認識があるだけで失敗する可能性は減るだろうし、何より失敗に気付けます。知らなければ一生騙され続けますが、失敗からは学べます。失敗を認識することで少しずつでも賢くなっていくことが、現代科学に向き合うために必要不可欠なことではないかなと思います。皆さんの科学が「絶対」の科学ではなく「疑問」の科学に変わることを祈っています。

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