なんでもプラシーボ

asai

なんでもプラシーボ

「なんだかすっかり治った気がする」


さっきまで腹痛でもだえ苦しんでいた隆史がケロッとした顔で言った。

「治るわけないじゃん。ほんといいかげんな体だね」

すぐ治るよと声をかけただけのになと、恋人の香織は呆れながらも、隆史の素直さがすごいとも思った。

隆史は今回の腹痛だけでなく、最後までF判定だった大学受験も、大手企業の採用試験も、香織がおだてあげた結果合格していた。

香織は隆史の底知れぬ思い込みの強さに、ほとほと呆れを通り越し尊敬すら抱いていた。

そんな昔話をしつつ公園のベンチで休憩していたところ、香織は何かと結果を残す隆史の横顔に少しときめいてしまった。

それがなんだか腹立たしく、少しからかってやろうと思った。


「隆史って、よく見たら竹内涼真に似てるよね」

「急になんだよ、思ってもないだろ」

「ほんとほんと!鼻も身長も高いし!」

「もういいよ、ちょっとトイレ行ってくる!」


度が過ぎたかなと少し反省していると、ハンサムな男が香織の隣に座り、照れながら口を開いた。


「まぁ母さんからはたまに褒められるけどね」


声を聴いて驚いた。そのイケメンは隆史だったのである。

おだてると成長するとはいえ、外見まで変わってしまうのか。

それからというもの、ことあるごとに隆史を褒めては、ビジュアルを整えていった。

ふと、香織の頭によこしまな考えがよぎった。


香織は隆史に大手芸能事務所のオーディションを受けさせた。

隆史はたくさんのドラマや雑誌に出演し、どんどん人気を博していった。

香織は友達に写真を見せて、芸能人になった隆史を自慢した。


ある日、香織が仕事から帰る途中、知らない女と手を繋いでいる隆史とばったり遭遇してしまった。

香織は今まで感じたことのない怒りが込み上げてきた。

恩を仇で返した隆史が許せなかった。

「本当に最低!馬鹿大嫌い!!!」


そんな幼稚な暴言が、虚しさにさらに拍車をかけ、香織は走って家に帰り泣き明かした。

次の日、隆史の母親から電話がかかってきた。


「隆史と連絡がつかないんだけど、どこにいるか知らない?」

香織はどこかで落ち込んでるんじゃないかと心配した。

そして彼を探しに家を出た瞬間、



「ぎゅいえええ!!」

近くで奇声が響いていた。怖い人がいるなぁと思ったが、近づいて見るとそれはパンツをかぶった隆史だったのだ。

「ぎゅいえええええええええ!!」

もしかしてと思った。昨日の罵詈雑言によって本当に最低の馬鹿になってしまった。

「隆史?」

「ぎゅいええええええ」

「あの時の隆史に戻って。。」

「ギュイえええええええええええええええ」

話を聞く能力さえも失われていた。

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